「日本一しか考えていない」
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チームを見事に躍進させた新庄監督
春先から首位を独走し、4年ぶりのV奪回を飾った
ソフトバンクの背中は遠かった。だが、
日本ハムがパ・リーグを盛り上げたことは間違いない。2年連続最下位から、今季は2試合を残して貯金15の2位と大躍進している。
一過性の勢いではない。首位・ソフトバンクに7連勝で対戦成績12勝12敗1分に持ち込むなど、攻守に底力がついた。ホーム最終戦となった9月29日のソフトバンク戦。エスコンフィールド開業以来最多の3万7527人の大観衆が詰めかけた中、試合後の挨拶でマイクを手にした
新庄剛志監督がCSに向け、力強く宣言した。
「僕たちは日本一しか考えていません。“ドラマ大航海”ここからが一番楽しいです。みなさん、僕に付いて来てください。1年間ありがとうございました」
就任した2年前はこの光景を想像できなかった。
西川遥輝(現
ヤクルト)、
大谷翔平(現ドジャース)、
中田翔(現
中日)、
近藤健介(現ソフトバンク)ら主力選手が次々に退団し、チームは若返りの時期を迎えていた。スポーツ紙デスクは、「日本ハムと同様に低迷期だった中日も
立浪和義監督が22年から監督に就任したが、日本ハムの方がチームの再建に時間が掛かると感じました。一軍のレギュラーとして試合に続けた選手が皆無に近かった上に、新庄監督の手腕が未知数だった。CSにいくまでは4、5年かかるイメージでした」と振り返る。
チーム再建は一朝一夕で成しえない。道半ばで終わるケースも少なくない。中日は立浪監督が血の入れ替えを敢行したが、2年連続最下位に低迷。今年も借金10以上を背負う苦しい戦いで成績不振の責任を取り、今季限りでの退任が決まった。
若手が次々に台頭
常勝軍団となったソフトバンクも、紆余曲折を経て今がある。
王貞治現ソフトバンク球団会長が、ダイエーの監督に就任したのは95年。長年Bクラスに低迷し、「負け癖」がついたチームの体質を改善するのは容易ではなかった。最下位に沈んだ2年目の96年は衝撃的な事件が。5月9日の近鉄戦(日生)の試合後、勝率3割を切るふがいない戦いぶりに怒りが爆発したファンが、ダイエーの移動バスを取り囲んだ。50個あまりの生卵、石、靴などが投げつけられ、罵声が飛んだ。王監督は「勝てば文句はないはず。この人たちも拍手を送ってくれるはずだ。俺は絶対、辞めない」と声を振り絞った。Aクラスに進出したのが就任4年目の98年。翌99年にリーグ優勝を飾り、日本シリーズも制した。
新庄監督が就任した22年から2年連続最下位に沈んだが、ファンから不満の声が少なかったのは、戦いぶりに成長の跡を感じたからだろう。
松本剛が首位打者を獲得し、若手の
清宮幸太郎、
万波中正、
北山亘基、
河野竜生ら若手が次々に台頭。移籍組の
アリエル・マルティネス、
伏見寅威、
郡司裕也、
田中正義、
池田隆英らも新天地で躍動し、チームに不可欠な存在になった。
2位に躍進した今季は新外国人の
フランミル・レイエスが打率.285、25本塁打、64打点と夏場以降に打棒が爆発し、
オリックスからFA移籍した
山崎福也が10勝をマーク。
金村尚真、
福島蓮、
柳川大晟、
田宮裕涼、現役ドラフトでソフトバンクから加入した
水谷瞬が次々にブレークしたことでチーム力がさらに底上げされた。
伊藤大海はリーグトップの14勝とエースにふさわしい活躍を見せている。
苦しんでいるときもケア
新庄監督は「選手がかわいくて仕方がない」と常々口にする。チームを長期的視点で見て、苦しんでいるときもケアをする。セットアッパーの池田は今季右肘の違和感で出遅れた。一軍復帰登板は7月2日の
ロッテ戦(エスコンF)。救援で1回を三者凡退で切り抜け、新庄監督にベンチ前で迎えられると感情を抑えきれず、涙が頬を伝った。その理由を週刊ベースボールの取材で明かしている。
「(新庄監督が)リハビリ中も何度も連絡をくれた。心理的にしんどいときに限って連絡をくれて、気に掛けてくれた」
18年以来6年ぶりのCS進出。大きな達成感はあると同時に、優勝できなかった悔しさはある。その思いを晴らすチャンスが残されている。CSを勝ち抜いて日本シリーズへ。日本ハムファンから新庄監督の長期政権を望む声が多いが、来季の去就はまだ明言していない。今は目の前の戦いに全神経を注ぎ込む。
写真=BBM