4年目で一軍初登板
ついに、たどりついた。
阪神のプロ4年目右腕・佐藤蓮が9月30日の
DeNA戦(甲子園)で一軍デビューを飾った。7回からマウンドに上がると、先頭打者の
東妻純平を153キロの直球で遊ゴロ、
梶原昂希を135キロのフォークで空振り三振。同学年の強打者・
牧秀悟も153キロの直球で遊ゴロに仕留めて三者凡退に。マウンドを降りると大きく息を吐いた。緊張の面持ちだったが、プロ初登板で最高の結果を残した。
常時150キロを超える直球は球威十分で、縦に大きく割れるパワーカーブ、落差十分のフォークを勢い良く投げ込む。スケールの大きい投球はCSに向けて頼もしい戦力になる期待を抱かせる。
今から4年前。球史に残る「黄金ドラフト」の一員だ。1位・
佐藤輝明、2位・
伊藤将司、5位・
村上頌樹、6位・
中野拓夢、8位・
石井大智と攻守の主力選手たちがズラリ。佐藤蓮はドラフト3位で指名された。アマチュア担当のスポーツ紙記者は振り返る。
「佐藤輝、伊藤は即戦力の触れ込みでしたが、佐藤蓮は大卒でも少し意味合いが違いました。投手経験が浅くまだまだ粗削りだったことから、2、3年後に一軍で活躍してほしいというイメージで獲得した投手だった。同期入団の選手が活躍する中で焦りもあったと思いますが、まだまだ勝負はこれから。大化けする可能性があり楽しみです」
育成落ちからはい上がって
飛龍高では3年春にエースナンバー「1」を背負ったが、体が発達途上だったため故障のリスクを考えて野手でプレーする機会が多かった。上武大で本格的に投手として再スタートを切ったが、右肘痛で遊離軟骨の除去手術を受けるなど、4年春まで公式戦の登板なし。無名の存在だったが、故障が癒えた4年秋に剛速球を武器に7試合登板で防御率1.80をマークし、スカウトの注目度が一気に上がった。身長188センチ、体重102キロを超える体格から投げ込まれる剛速球は、打者に恐怖感を与えるほどのすごみを感じさせた。
阪神入団後は、苦しい時期のほうが長かった。右肘痛、腰痛など度重なる故障に苦しみ、制球難でファームでもなかなか結果を残せない。2年目オフには育成契約に。一軍登板がないまま、背水の陣で迎えたプロ4年目。ウエスタン・リーグで49試合登板し、2勝0敗3セーブ、防御率2.03の好成績をマーク。48回2/3で51三振を奪った。ファームでの活躍が評価され、7月20日に支配下に復帰。背番号「98」で一軍のマウンドにたどり着いた。
高い奪三振能力も魅力
阪神の救援陣は
桐敷拓馬、
岩崎優、ゲラ、石井、
漆原大晟、
岡留英貴、
島本浩也、
富田蓮と能力の高い投手がそろっているが、佐藤連のようなパワーピッチャーは珍しい。制球が適度に荒れていることで打者の腰が引ける。三振奪取能力が高いことも魅力で、一軍のブルペン陣に定着すれば大きな戦力になる。
他球団のスコアラーは、「恵まれた体格、球質が
ソフトバンクのセットアッパー・
杉山一樹と重なります。入団時より制球力が改善されて、ストライクゾーンでどんどん勝負できるようになった。こういった『ロマン枠』の投手はハマったときにすごい投球を投げる。育成に成功すれば手強い投手になることは間違いない」と警戒する。
杉山も潜在能力の高さをなかなか発揮できなかったが、プロ6年目の今季は50試合登板で4勝0敗1セーブ14ホールド、防御率1.61と自己最高の成績をマーク。50回1/3を投げて61三振と力強い投球で、4年ぶりのV奪回に貢献した。
同期入団の選手たちの活躍は、刺激になっているだろう。38年ぶりの日本一に輝いた昨年は村上が10勝6敗、防御率1.75でMVP、最優秀防御率、新人王を受賞と大ブレーク。今季は石井が自己最多の56試合登板で4勝1敗1セーブ30ホールド、防御率1.48と救援陣に不可欠な存在になっている。「サトレン」の愛称で親しまれる右腕も、大輪の花を咲かせられるか。サクセスストーリーは始まったばかりだ。
写真=BBM