週刊ベースボールONLINE

大学野球リポート

【大学野球】チームが一体となるために…感情を表に出すようになった明大・宗山塁

 

イチローの影響を受けて


明大・宗山は7回裏に同点タイムリー。一塁ベンチに向かってガッツポーズを見せた[写真=矢野寿明]


【10月20日】東京六大学リーグ戦第6週
早大3-3明大(早大1勝1分け)

 明大の主将・宗山塁(4年・広陵高)は自身の性格を「大人しいほうだと思います」と分析する。野球少年だった頃から、試合で一喜一憂しないタイプだった。ただ、事情により、例外があった。小学6年時、広島東洋カープジュニアでプレーした際、安打の後、ガッツポーズした写真を見たことがある。同チームでコーチを務めていた父・伸吉さんは明かす。

「ベンチが盛り上がり、チームメートから無理やりやらされていた感じです。本人はあまり、歓迎ではなかったようです(苦笑)」

 宗山はなぜ、感情を表に出さないのか。

イチローさんが、どこかで言っていたんです。『冷静な奴にはかなわない。それが、一番の強さだ』と。喜怒哀楽が出そうになるんですが、グッと我慢しています。感情に身を任せると、相手の思うツボ。高校時代は自分で自分を追い込み、心を制御できず、失敗してきました。どんな場面で活躍しても、喜ばない。大前提として対戦チームへのリスペクト。相手から見ても不気味か、と。チームメートの頑張りは、素直に喜びます」

 明大入学後、自身が活躍しても、そのポリシーをずっと貫いてきた。しかし、今秋の学生ラストシーズン。大きな転機が訪れた。1勝1敗で勝ち点をかけた立大3回戦で適時打を放つと、一塁上で右手を大きく上げ、三塁ベンチに向かって気勢を上げた。キャプテンがチームを奮い立たせて、2勝1敗で勝ち点3を奪取。首位・早大の6勝1敗1分けに並び、第6週の相星決戦を迎えたのだった。

 明大は1回戦を落とし、あとがない2回戦。3点を追う7回裏、木本圭一(3年・桐蔭学園高)のソロ本塁打で2点差とすると、二死走者なしから代打・吉田匠吾(3年・浦和学院高)が気迫の中前打で出塁。一番・直井宏路(4年・桐光学園高)が四球を選び、二番・飯森太慈(4年・佼成学園高)が、しぶとく左翼と遊撃の間に落として1点差。そして一、三塁から宗山が右前同点適時打を放った。

「(好機を作った)4年生からバトンがつながれてきたチャンス。気持ちで一本を出せた。一つ、打点がついたヒット。もっと行くぞ!! とチームを鼓舞しました」。立大3回戦に続き、喜びを素直に表現したのである。

4時間35分の大熱戦


 どんな変化があったのか。今季初黒星を喫した立大1回戦後、副将・中山琉唯(4年・常総学院高)から一つの提案があったという。

「『チームを盛り上げてほしい』と言われました。負けて、何かを変えていかないといけない。自分の置かれた立場を理解した上で、一つの仕事として、一体となるために、伝えていこう、と。自分なりにやっています」

 3対3。9回表に照明が点灯した。そのまま決着がつかず延長へ。11回表、早大の攻撃中に18時が過ぎ、太鼓を使用しての応援が自粛。お互い相譲らず、連盟規定により、12回引き分けとなった。14時1分に開始したゲームは18時36分に終了。最長試合である4時間48分(1967年春、法大2対2慶大、延長15回)に迫る、4時間35分の大熱戦だった。

3対3で決着がつかず、12回引き分け。史上最長試合の4時間48分に迫る4時間35分の死闘だった[写真=矢野寿明]


「負けなかったのは、一つの良かったところ。粘れる力もついてきた。勝ち切る力が、ここから必要になる。最後の1球まであきらめない姿勢を見せ、まずは1勝する」(宗山)

 明大は1敗1分け。あとがない状況が続くが、明大・田中武宏監督は手応えを得ている。

「得点したのは4年生。ピンチを脱したのも4年生。4年生がよくつないでくれた。毎年のことですが、4年生には期待しています」

 8回から四番手で救援した浅利太門(4年・興國高)は11回途中まで、80球の熱投だった。「交代するタイミングで『4年生で!!』という声があり、山田(翔太、4年・札幌第一高)でいきました。浅利が『僕がボールを渡して良いですか』とね」。田中監督は微笑んだ。最上級生の結束力を、感じたのだった。

 明大が勝ち点を奪うには、3回戦で雪辱し、4回戦へ持ち込まなくてはならない。宗山は「一球、1プレーが重くなる。しっかり準備して、自分のできる最大限のことをしたい」と意気込んだ。田中監督は執念を燃やす。

「4年生が早稲田とやるのは最後。(活動拠点の内海・島岡ボールパーク内の)御大の胸像の前で、いつも早慶への執着心の話をしてきている」。かつて明大を計37年率いた島岡吉郎元監督は早大、慶大とのカードを特別視し、ライバル心をむき出しにした。メイジの伝統は、現役学生にしっかりと継がれている。

文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング