週刊ベースボールONLINE

大学野球リポート

【大学野球】ラストゲームで無念のメンバー外も東大・府川涼太郎が得た学び

 

代打で頭部に死球


東大・府川は立大戦の試合前練習で、2日とも打撃投手を買って出た。背後には、自身が着用するはずだった背番号22のユニフォームが、ベンチに掲げてあった[写真=BBM]


【10月27日】東京六大学リーグ戦第7週
立大13-5東大(立大2勝)

 0対13でも、絶対にあきらめない。東大サイドの一塁側応援席は『闘魂は』の大合唱。大声援を背に5点を返す意地を見せたが、及ばなかった。2017年秋以来のシーズン2勝も、勝ち点0で54季連続最下位が決まった。

 東大の主将・藤田峻也(4年・岡山大安寺高)は「東大の応援は、六大学で一番の応援席です」と感謝を述べた。控え部員が座る一塁応援席の最前列で声を張り上げていたのは、府川涼太郎(4年・西大和学園高)だった。東大ベンチには、背番号22のユニフォームが掲げられていた。ベンチでともに戦っていた。

 今秋は主に代打で8試合に出場(捕手で先発1試合)した。法大3回戦では、代打で頭部に死球を受けた。日常生活に支障はなかったが、打撃において「ボールの見え方が良くない」と違和感が拭えなかった。立大との最終カードでの復帰を目指していたが「チームには迷惑がかけられない。自分の代わりに元気なメンバーが入ったほうがいい」と、自らベンチ入り25人からの登録外を申し出た。

 立大1、2回戦とも試合前練習では打撃投手を買って出た。練習が終わると制服に着替え、応援席で東大ナインを後押しした。

「(コロナ禍を経て、声出し応援が解禁されて以降)初めてスタンドから応援しましたが、気づきがありました。ベンチにいて、相手に先制点を奪われると、どうしても沈んでしまうことがあったんですが、応援席はいつも前を向いている。自分たちよりも『大人』です」

大学で野球は一区切り


東大はこの秋、正捕手に3年生・杉浦が定着した。キャッチャーである府川としても、後輩の成長がうれしかった[写真=BBM]


 4年秋の最終カードは、スタンドで卒業を迎えた。府川は3年春からリーグ戦に出場し、今春は開幕から2カード4試合、先発マスクをかぶった。慶大2回戦では初本塁打(2ラン)を放っている。3カード目以降は1学年後輩の杉浦海大(3年・湘南高)にマスクを譲った。杉浦は今秋、レギュラーに完全定着し、初めて規定打席に到達。神宮で実戦経験を積む中で、攻守ともレベルアップした。

「杉浦はもともと守備に定評がありましたが、この秋を通じて、打撃も飛躍的に向上。コミュニケーションを積極的に取るようにしてきました。信頼している。頼もしい存在であり、来年も安心して正捕手を任せられます。杉浦の来秋の卒業を見据えて、下級生捕手の奮起に期待したいです」

試合後は勝利した立大からエール交換。両校の選手たちもグラウンドに残り、見届けた。東大もメンバー、控え選手とともに応援歌『ただ一つ』を歌った[写真=BBM]


 府川は大学で野球は一区切り、一般就職する。

「卒業後も野球を続けたい気持ちもありました。この4年間、うまくなるための努力を重ねてきたつもりです。恵まれた環境でしたが、野球人生で一番、しんどかった……。社会人で続けている先輩からのアドバイスも受けましたが、尊敬します。通算打率.250。自分の中では良くやったほうかと思います」

 試合前練習を見ていると、多くのメンバーが府川に声をかけていた。不動の一番・酒井捷(3年・仙台二高)は「落ち込んでいる様子だったので……。自分たちが勝って、恩返ししたい」と決意を込めて臨んでいた。背番号22がベンチにユニフォームが掲げられていたのも、人望の厚さにほかならない。

 府川はラストカードでメンバー外という悔しさを胸に秘めながらも、多くの学びがあった。最後に控え選手の思い、応援してくれるファンの熱量を肌で感じ、学生野球を終えた。

文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング