涙腺が崩壊した大島監督

法大は明大戦で連敗。試合後はエール交換を見届けた[写真=矢野寿明]
【11月4日】東京六大学リーグ戦第8週
明大6-4法大(明大2勝)
今秋の東京六大学リーグ戦は9週制。プロ野球・
ヤクルトの日本シリーズ開催の可能性のある偶数年は、日程が重複する第7、8週は1カードとしている。2022年から運用がスタート。第7週は立大-東大、第8週は明大-法大が組まれた(第9週は早大-慶大)。
日本シリーズが開催されていれば10時開始だったが、ヤクルトはレギュラーシーズン5位のため、13時開始。試合後にスケジュールが控える「プロ併用日」ではなくなったため、この2週はゆとりを持った運営だった。
言うまでもなく、4年生は学生最後のリーグ戦。第7、8週の最終戦はかつてない動きがあった。試合後、スタンドへのあいさつを終え、ベンチには下がらず、そのままグラウンドに残った。両校がエール交換を見届けた。東京六大学において、野球部と応援団(部)は運命共同体。野球部としては、応援してくれたスタンドへ感謝を示す貴重な場となった。
法大は明大2回戦を落とし、連敗した。6勝6敗2分け、勝ち点3の3位でシーズンを終えた。すでに第8週を迎えるまでに、法大の優勝の可能性は消滅。明大は法大戦で1敗すれば、早大の優勝が決定するという星勘定だった。法大は意地を見せたいところであったが、明大の粘り、勝利の執念に屈する形となった。
2021年から助監督を務め、今春から母校を指揮する
大島公一監督はシーズンを回顧した。
「勝たせてやりたかった……。最後まで粘ってくれました。負けましたが、追いつこうとチーム一丸になってくれた。どの大学さんとも接戦でしたが、上回っていた部分と(勝ち点を落とした)明治さん、早稲田さんとは攻撃力、守備力で劣っていました」
試合後のエール交換中から、大島監督は涙をこらえるのに必死だった。記者会見ではついに我慢は限界に達し、涙腺が崩壊した。
「セレモニーに感激しました。学生たちはすごい経験をした。次に生かしてほしい。六大学のすごさ、この1カードで、神宮でゲームができる幸せ。すごいビッグゲームでした」
これも、連盟創設から99年に及ぶ東京六大学リーグ戦の歴史がもたらすシーンだが、感慨に浸るのもそこまで。勝利を宿命とされた、法大を取り巻く現実は厳しい。2020年春を最後に天皇杯から遠ざかり今春、46度で並んでいた優勝回数が早大に抜かれた。
優勝経験がないまま卒業
現在の4年生は、優勝経験がないまま卒業する学年となった。主将・吉安遼哉(4年・大阪桐蔭高)は責任を口にした。
「この伝統、勝つことの難しさを改めて感じた。先輩方の偉大さを感じた。順位が決まった(優勝の可能性がない)中での血の法明戦。結果的に何も残せなかったが、戦う姿勢は見せられた。3年生以下は、この経験を来年以降に生かして優勝してほしい」
大島監督は「申し訳ない。勝たせてやれなかった。優勝の喜び、勝つ喜びを経験させてやれなかった。申し訳ない」と頭を下げた。一方で「(2024年のチームスローガンである)『結』は少しずつ固まってきた」と手応えを口にした。主将・吉安が言う「戦う姿勢」。マウンドで体現したのは、通算14勝を挙げた
篠木健太郎(4年・木更津総合高)だった。
篠木は昨秋、疲労蓄積によりシーズン途中離脱。大島監督は将来を見据え、慎重に起用する意向を明かしていた。しかし、責任感の強い篠木は万全の調整を経て、気迫の投球を貫いた。大島監督は篠木の「思い」を最大限に尊重しながらも、無理はできない。この1年、指揮官とエースのせめぎ合いが続いた。篠木は
DeNAからドラフト2位指名を受けた。
「壊れなくて良かった……。チームのために鼓舞してくれた。(エースの気概に)付いて行けなかったのは、僕かも……」(大島監督)
篠木は学生野球の模範だった。野球のために、すべてを犠牲にしてきた。学業も手を抜かず、文武両道を実践。いつも言っていたのは「自分でコントロールできる部分を大事にしたい」。背番号18のエースが残した足跡を、後輩はどう受け止めるか。覚悟を決めた、自覚ある行動。法大復活へのキーワードである。
文=岡本朋祐