昨季は3人が「併用制」

昨年、巨人優勝の立役者となった3人の捕手[左から岸田、小林、大城]
FA補強はチーム内に大きな刺激をもたらす。巨人は今オフにFA権を行使した
ソフトバンクの正捕手・
甲斐拓也を獲得した。「甲斐キャノン」と形容される強肩を武器に、ゴールデン・グラブ賞を7度、ベストナインを3度受賞し、2017年から4年連続日本一を経験している。甲斐のすごみは対戦した巨人の首脳陣、ナインが肌で感じているだろう。ソフトバンクと対戦した19、20年の日本シリーズで2年連続4連敗。日本シリーズ史上初の屈辱を味わった。常勝軍団の司令塔が味方になることは心強い。
ただ、捕手のレギュラーは1枠のみだ。4年ぶりのV奪回を果たした今季は
岸田行倫、
小林誠司、
大城卓三の3人が「併用制」で起用されていた。岸田がチーム最多の72試合でスタメン出場し、小林は今季最多勝に輝いた
菅野智之が先発で投げるすべての登板試合でマスクをかぶった。昨年までの正捕手だった大城は先発マスクが34試合と激減し、打力を生かして一塁で起用されることも。正捕手を固定できなかったが、3人の捕手を起用することでそれぞれが特徴を生かし、補完し合っていた。
正捕手争いはさらに熾烈に
週刊ベースボールで小林、大城、岸田が対談した際に、大城が「一人ひとり、絶対に起用される理由があるし、理由が違うと思うので、そこはいつも考えていました」、岸田が「いろいろなことを共有しながらやってきましたけど、それでもそれぞれのキャッチャーとしての考え方はたぶん違いますからね。今年に関しては先発ピッチャーによって組むキャッチャーが固定されていたので、攻め方とかが偏ったりしてくると、相手バッターに考えが読まれていると感じることもありましたし、相手バッターとのやり合いというのも、1年を通してすごく勉強になりました」と収穫を強調。
小林は「2人が言ったように、やっぱりそれぞれのキャッチャーとしての特徴があって、配球とかにもそれぞれのクセが出てくると思うけど、3人がそれぞれ試合に出ることでそれがいい方向に向いたところはあるし、優勝につながったところはあると思う。お互い今年1年でいろいろな経験をしたから、それをまた来年以降につなげていかないとね」と語っていた。
甲斐の加入で正捕手争いはさらに熾烈になるだろう。岸田、小林、大城は一軍の座を確約されない立場になる。FA権を取得した大城に関しては、今オフの去就が注目された選手だった。「強打の捕手」として定評があり、一昨年は打率.281、16本塁打、55打点をマーク。ベストナインを2度受賞している。守備面でも21年にリーグトップの盗塁阻止率.447をマークするなど正確なスローイングに定評がある。昨年のWBCで侍ジャパンに選出され、途中出場した準決勝のメキシコ戦で9回に
大勢とのバッテリーで無失点に抑え、直後の逆転サヨナラ勝利につなげた。
他球団の首脳陣は「打撃が良いだけでなく、守備面での評価も高い捕手です。FA権を行使したら複数球団が獲得に乗り出したでしょう」と高い評価を口にしていた。
巨人残留を決断
捕手としての出場機会を求めるなら、他球団にFA移籍という選択肢も考えられただろう。だが、巨人で仲間たちと共に日本一を目指すことを決断した。一塁も守れるが、捕手へのこだわりは当然ある。同学年の甲斐は強力なライバルになるが、大城も大きな重圧を受け続けながら巨人のマスクをかぶりつづけてきた自負がある。
他球団を見ると、FA移籍してきた捕手が正捕手で固定されていないケースが見られる。22年オフに
森友哉が
西武から
オリックスにFA移籍してきたが、
若月健矢には強打が持ち味の森と違う魅力がある。今季の先発マスクを見ると、若月がチームトップの87試合。森が故障で戦線離脱した影響を配慮しなければいけないが、リーグトップの盗塁阻止率.474と奮闘した。
巨人でも同じような化学反応が起きるか。甲斐に負けじと、大城、岸田、小林が奮起してハイレベルな正捕手争いが繰り広げられればチーム力が上がることは間違いない。
写真=BBM