
昨季は一軍で4試合の出場だったが、ファームで経験を積んだ
実戦でアピール
リーグ連覇を狙う
ソフトバンク。注目されるのが正捕手争いだ。正捕手を長年務めていた
甲斐拓也がFA権を行使して
巨人に移籍。大黒柱が抜けたことで、捕手陣は目の色が違う。昨年自己最多の51試合出場し、3月5、6日に開催される「ラグザス侍ジャパンシリーズ2025」で侍ジャパンに初選出された
海野隆司、
DeNAで正捕手を務めた経験を持つ
嶺井博希、強打に定評がある
渡邉陸、強肩強打で大きな可能性を秘める
谷川原健太と4人の争いとなる。
熾烈な競争の中で、すべての実戦がアピールの場となる。紅白戦から気を吐いたのが谷川原だ。2月15日の紅白戦初戦では2打数2安打。17日の紅白戦でもバットが振れていた。紅組の「七番・捕手」でスタメン出場すると、1点差を追いかける3回に
杉山一樹の148キロ直球を右翼の芝生席に運ぶ同点ソロ。5回に先頭打者で
木村光から中前打を放つと、7回は育成右腕の川口冬弥から四球を選び、全3打席で出塁した。
守備面でも投手と積極的にコミュニケーションを取り、捕球の際にはフレーミング技術が光った。
小久保裕紀監督は送球とブロッキング技術を重視しており、扇の要としてディフェンス能力が問われる。他球団のスコアラーは「肩の強さだけで言えば現在の甲斐より上です。打撃も広角に長打を打てるスイングが
阿部慎之助(現巨人監督)と重なる。実戦で起用し続ければ攻守でさらに良くなるでしょう」と警戒を強める。
外野での強肩が話題に
出場機会を得るため、本職の捕手以外に内外野を守ってきた。谷川原が思いがけない形で注目を集めたのが、21年4月9日のウエスタン・
広島戦(タマスタ筑後)だった。「五番・右翼」でスタメン出場すると、6回の守備で無死一塁から
小園海斗の右前打で、三塁を狙った一塁走者の
中村奨成に対し、右翼から地をはうようなノーバウンド送球を投げた。
パ・リーグTVのYouTube動画でこのプレーが配信されると、強肩ぶりが話題に。この時点ではまだ一軍出場がなかったが、現役時代に球界を代表する外野手としてゴールデン・グラブ賞を10度受賞した
新庄剛志(現
日本ハム監督)が「僕が今、現役選手を見た中でこの子が一番肩が強い」と自身のインスタグラムで絶賛。「リリースポイントまでの腰のひねりの回転スピード、テークバックの力みのなさ、トップまでのスピード、リリースポイントから手首で20センチ、ボールをたたきながら押し込んでいるから、低い弾道で伸び上がるようなボールを投げている」と技術面の高い能力を解説した。
捕手に強いこだわり
強打を生かして他のポジションにコンバートする選択肢もあった。チームで主力選手の
近藤健介、
栗原陵矢のほか、
和田一浩(元
中日ほか)、
小笠原道大(元巨人ほか)、
山崎武司(元中日ほか)はいずれも捕手から他のポジションにコンバートされて球界を代表する強打者に駆け上がった。
だが、谷川原は捕手にこだわった。22年に
週刊ベースボールのインタビューでこう語っている。
「皆さん、キャッチャーをほぼやめちゃってるんですよね。でも、僕は捕手をあきらめたくないんです」、「小学校から、ずっとキャッチャーでした。やる人がいなかったんですよ。それで、僕がやっていたら、そこからずっとキャッチャーになりました。好きでしたね。プロに入ってからは、ちょっと好きじゃなかったときもあったんですけど、年を重ねていくごとに、やれる楽しさとかを感じて、好きになっていきました」。
捕手一本で勝負した昨年はウエスタン・リーグで74試合出場と経験を積み、シーズン終盤に一軍で4試合出場。打率.444をマークしてプロ10年目の今年につなげた。同学年の海野には負けられない。正捕手獲りへ、巡ってきた最大のチャンスを生かせるか。強打の捕手は稀少価値がある。野球人生のターニングポイントで大輪の花を咲かせたい。
写真=BBM