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【東都大学野球】亜大V奪還の原動力「第2の監督」が存在感を発揮した理由

 

監督の役割は「任せる」「見守る」こと


優勝を決めた国学院大2回戦後、前嶋は表彰を受けた[写真=矢野寿明]


 亜大は国学院大2回戦で連勝し、9季ぶり28度目の東都大学リーグ制覇を決めた。2024年春から亜大を指揮する正村公弘監督は、23年秋まで八戸学院大を率いていた。23年春まで務めた生田勉元監督が体調不良により、6月14日付で退任。8月1日以降、亜大の大学職員である同校野球部OBの鈴木一央監督と山下達也コーチが現場指導に当たり、同秋のシーズンをつないだ。その後、新監督の選定に着手し、東海大OBの正村氏が24年1月1日付で就任したのだった。

 就任2年目の昨春は開幕7連勝も、青学大2回戦で初黒星を喫すると、3回戦も敗れ勝ち点を落とす。日大との最終カードは2勝1敗で勝ち点4としたが、青学大との直接対決で落としたことが響き、V逸となった。同秋は一転して5勝9敗、勝ち点1の5位という厳しいシーズンを過ごした。勝負は紙一重。「戦国東都」の現実を、まざまざと知らされた。

 正村監督は試合前日にはゲンを担いで、必ずカツ丼を食べる。散歩は1時間以上。活動拠点である西多摩郡にある日の出キャンパス内のランニングコース(周回1.1キロ)を歩き、ゲームプランを熟考するのをルーティンとしている。北東北大学リーグと東都大学リーグでは勝手が違った。一部6校の実力は拮抗しており、優勝争いよりもまず、最下位、入れ替え戦を回避しないといけない。就任3年目。指揮する上での考えを改めたという。

「『割り切る』ことに慣れただけで、東都の厳しさはまったく変わらないと思います。ほかのチームも強いですから。『割り切る』とは、自分の気持ちの中で考えても、何も起きないということが分かりました。僕が前の日に何考えても、プレーするのは選手たちなので、監督として余計なことは言わずに『任せる』『見守る』ことに徹しています」

 もちろん、日々の練習において万全の準備をしてきたからこその「放任」である。そこで、現場の指揮を任されてきたのが正捕手・前嶋藍(4年・横浜隼人高)だった。

「ピッチャーを代えるのも僕か山里(山里宝主将、4年・神戸国際大付高)なので、そこの点に関しては、打たれたらピッチャーには言っているんですけど『僕の責任』と言っているので。それだけ気持ちに余裕を持ってマウンドに上がってもらえれば、ピッチャーも楽だと思うので……。抑えたら投手の手柄、打たれたら捕手のせい。サインを出す以上、それだけの重責を背負っています。負けても勝っても監督と言われますけど、第2の監督は絶対、キャッチャーだと思うので。1個歯車が狂えば、悪いほうに流れてしまうので、この秋はいいほうに行ってくれたのかなというのはあります」

 前嶋が正村監督に対してマウンドに来てほしい、とサインを送ることもある。

「キャッチャーがマウンドに行けるのは1イニングで1回なんです。時間をかけたいときであったり、試合の流れを察知して、このイニングは危ないと思ったら、監督に来てもらって、間を取るようにはしています。僕がブルペンを見て、投手交代することもあります。すごい権限ですか? 結局、やるのは僕たち4年生なので。そこは、後悔なくやりたいです」

正捕手として答えを出した4年秋


マウンド上で集まる際にも、正捕手・前嶋[右端]が中心にいた[写真=矢野寿明]


 こうしたメンタリティーが構築されたのは、横浜隼人高時代が原点だという。

「高校のときも水谷先生(水谷哲也監督)から『第2の監督はキャッチャーだ』と言われたんですけど、そこから本当に野球に取り組む姿勢も改め、さらに努力が必要であると感じたんです。僕を変えてくださったのは、水谷先生。まず、優勝を報告したいのは水谷先生です」

 黒子に徹してきた。

「ドラフト(9月4日にプロ志望届提出)もありますけど、チームを勝たせないといけない。つまり、自分の結果よりもチームの結果が最優先になります。今日も打てていないんですが(3打数無安打)、投手をリードすることに徹して、チームが勝てれば良いと思っています」

 前嶋が入学以来、1年春から3年秋まで6連覇を遂げたのは青学大だった。その6シーズン、すべてでマスクをかぶっていたのが渡部海(4年・智弁和歌山高)。渡部は全日本大学選手権で2度、明治神宮大会でも2度の優勝経験がある。前嶋は大学日本代表で昨年、今年と渡部とチームメート。大会で主にマスクをかぶったのは渡部であり、前嶋は控えに回っていた。そんな過程を経て4年秋、最後に答えを出したのである。

「渡部を意識することはないですけど、やはり『勝てるキャッチャー』というのが一番、評価されると思うので。優勝の回数は違いますけど、最後の最後でここの東都で勝てたということは、非常に大きいと思います。僕だけの力ではなく、ピッチャーもそうですけど、野手も頑張ってくれたので、僕の結果よりもチームメートの奮闘ぶりが素直にうれしいです」

 国学院大1回戦で右腕エース・川尻啓人(4年・高岡商)が22年ぶり11人目のノーヒットノーランで優勝に王手。バッテリーで積み上げた27個のアウトに達成感があった。

「自分のことのようにうれしいですし、自分のことに関してもうれしかったです。川尻自身は負けが多かった中でここまで成長してくれた。昨年のチームの柱だった齊藤さん(齊藤汰直、広島)と一緒で、秋までにチームの柱として仕上げたので、本当に感謝しています」

 頭脳をフル回転させ、インプットした情報すべてをはき出した。前嶋は本音を漏らした。

「今日は1回、休みたいと思います。明日も休みたいです(苦笑)」

22年ぶりの快挙へ挑戦


 10月22日にドラフト会議が控えるが、亜大は同20日からの中大との最終カードを残す。

「川尻のノーヒットノーランが22年ぶりで、チームとして僕たちが10勝0敗をできれば、東都で22年ぶり(04年春の日大)なので、何か縁があるかな、と。僕たち4年生も2004年生まれの22歳なので、達成したいと思います」。

 1年秋、2年春に監督が交代。学生としては落ち着かない日々を過ごしたが、前嶋の意思がブレることはなかった。

「良くも悪くも、僕たちは日本一を目指してこの大学に入学したので、監督が代わったどうこうで、精神的に変わる必要はなかったので……。本当に日本一やプロ野球選手になるために亜細亜大学に入学したので、最後に優勝できたというのは良かったというのはあります」

 まだ、気は休まらない。リーグ制覇の余韻に浸ることなく、新たな挑戦を続けていく。それが、亜大の強さの秘訣だ。

取材・文=岡本朋祐
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