
自分の現役時代のフォークの握りです。ボールを挟むために関節を柔らかくする練習をしていました
二段モーション論争
菊池雄星(
西武)の二段モーションの一件がNPBとの話し合いの結果、一段落となりました。今後はルールに従いフォームを修正するとのことですが、これがどれほど大変な作業なのか、よく分かります。自分が二段モーションの禁止によってフォームを改造せざるをえなかったのは2006年の開幕前。キャンプで試行錯誤して、「ここまではOK」「これはダメ」と一つひとつ確認しながらフォームを固めるという時間のかかる作業でした。それだけ投手にとって、フォームはとても大事なものなんです。
菊池にモーションで変化をつけて打者のタイミングを外そうとか、そうした意識はなかったはずです。あくまでもいいボールを投げようと、追求した結果です。シーズンは9月を迎える大事な時期ではありますが、何とかこの逆境を乗り越えてもらいたいものです。
さて、今回は変化球について書いていきます。今年も
千賀滉大(
ソフトバンク)の「お化けフォーク」をはじめ、印象的な変化球の使い手がシーズンを盛り上げています。千賀のチームメートである
武田翔太のカーブもあらためて素晴らしいと思いました。物理的に考えれば投手の指から離れたボールが途中で加速することはありえないのですが、一度スピードを増して、浮き上がるように見えるほど落差のあるドロップカーブ。これも一級品の変化球でしょう。
そんな中でも際立っているのが、
菅野智之(
巨人)と
則本昂大(
楽天)のスライダーとカットだと思います。すごい変化球を投げる投手はたくさんいますが、自分の手足のようにボールを操れる投手はそうはいません。三振を奪うだけでなく両サイドへの出し入れ、意図的にファウルを打たせる高い技術は菅野、則本の2人が飛び抜けています。
とくに菅野はインコースでファウルを打たせて内を意識させておいて、外にワンシームを投げてみたり、外からのスライダーでカウントを稼いだり、いろんな球種を駆使しながら投球をしているという印象です。どの球種もレベルが高く両リーグトップの防御率1.78(9月3日現在)もうなずけます。日本で一番完成度の高い投手でしょう。

現時点で日本球界トップの変化球の使い手は菅野で決まりでしょう
子どもの憧れ変化球
自分が現役時代の持ち球は、ストレート、カーブ、スライダー、カットボール、
シュート、フォーク。小学生のときに初めてカーブを覚えて、中学生になりスライダーとともに試合で投げ始めた。高校でフォークを投げ、そしてプロに入ってからシュートを習得しました。シュートはプロ入り直後に覚えて試合で投げたところ、簡単に打ち込まれてしまって一時は使わなくなった変化球です。ところが30歳を超えて、テレビ番組で
西本聖(元巨人ほか)さんが披露しているのを見て、やっぱり投球の幅を広げるにはシュートは必要だなと感じたんです。そこからもう一度ブルペンで磨き直して、1年以上の練習を重ねてようやく試合で使えるようになりました。
カットボールもプロになってからですね。当時はカットなんて名前ではなく、いわゆる真っスラです。意図的にそうした横滑りさせるボールを投げていました。昔に比べると、今はカット、ワンシーム、ツーシームと見分けづらい変化球が増え、打者を手こずらせています。自分も解説の仕事をやっていて、「今のどっち?」というボールが多い。投げている本人がどう呼んでいるかという面もあります。
山崎康晃(
DeNA)の落ちる変化球は、ツーシームと呼ばれていますが、ボールの軌道はフォークです。でも本人は教わった過程でツーシームとして習得したから、そう呼んでいるそうです。
メジャーからカット、ツーシームなど微妙な変化のボールが入ってきて、バットの芯を外す投球が広く定着していますが、ツーシームは昔でいえばシュートですからね。真っスラというよりもカットボールと言ったほうがカッコいいでしょう(笑)。昔はストレートといえば、きれいな回転のフォーシームがお手本とされていた。それが“クセ球”が一つの変化球として認識されるようになったわけです。
こうして変化球の種類が増えて、いろいろなところで話題となることはいいことだと思います。プロ野球の投手が投げている変化球は、いつの時代も子どもたちの憧れでした。自分たちが子どものころには、ボールに指の握る位置が書いてあって、そのとおりに投げると変化球が投げられるおもちゃのボールがありました。あれが欲しくて仕方がなかった。初めてボールが曲がった瞬間や、変化したボールに打者が驚いた顔を見るとすごくうれしかった思い出があります。
プロの投手も試行錯誤しながら変化球を習得します。週ベの変化球特集で「握り」をチェックしている投手もいます。他球団の投手だとなかなか聞けませんからね。「こうやって握っているんだ」「ちょっと試してみようかな」と言いながら。「俺はそんなに変化しないな……じゃあ、こうしてみよう」とア
レンジを加えていくわけです。
でも、だからといって誰もが千賀と同じ握り方で、同じような投げ方をすれば「お化けフォーク」が投げられるかといえば、それは無理です。だから、こうやってプロの投手が“商売道具”でもある変化球を雑誌で披露してくれているのでしょう。奥の深い変化球の世界。これも野球の魅力であり、楽しみ方の一つだと思います。

こちらの握りは菅野のスライダー。キレ、コントロールも素晴らしく打者の手元で鋭く曲げています
PROFILE 三浦大輔/みうら・だいすけ●1973年12月25日生まれ。奈良県出身。183cm88kg。右投右打。高田商高では甲子園の出場はなし。3年夏は奈良大会決勝で天理高に敗れた。92年にドラフト6位で横浜大洋ホエールズ(現DeNA)へ入団。以来、同球団一筋。98年にはキャリアハイとなる12勝を挙げ、リーグ優勝、日本一に大きく貢献。2014年からは兼任コーチとなり16年限りで25年の現役生活に終止符を打った。今季より横浜DeNAベイスターズのスペシャルアドバイザーを務める。リーゼントの髪型がトレードマーク。「ハマの番長」の愛称で引退後も多岐にわたり活躍中。通算535試合172勝184敗。