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“一打無敵”のご意見番が球界を斬る 張本勲の喝!!

張本勲コラム「“無茶振り”ではあるが森友哉は完成度の高い打撃技術を備えている」

 

森の完成度の高いバッティング技術には目を見張る


森のバッティングは多くの面で余裕がある


 今シーズンは西武森友哉がパ・リーグのMVPに輝いた。キャッチャーとして首位打者を獲得したのは野村克也さん(元南海ほか)、古田敦也(元ヤクルト)、阿部慎之助(元巨人)に続いて史上4人目だという。昨シーズンはDHでの出場も多かったが、今シーズンはリーグ連覇を果たしたチームにおいて135試合出場のうち128試合でキャッチャーとして守備についた。100試合以上にキャッチャーとして出場しながら首位打者を獲るというのは、並大抵のことではない。本当に立派なものだし、これは“あっぱれ”をやらないわけにはいかない。

 キャッチャーとしての守備面ではまだまだ課題は多いが、ことバッティングに関しては本当に素晴らしいものを持っている。今シーズンは広島鈴木誠也や巨人の坂本勇人のバッティングも良かったが、森も負けず劣らずの見事なバッティングを見せていた。

 森といえば「フルスイング」が代名詞のようになっている。「フルスイング」といえば聞こえはいいが、私に言わせれば無茶振りだ。本人は全力で振り切らなければ気がすまないのだろうが、空振りしたときなどは体がグラグラしていることがある。

 それだけ思い切りバットを振りながらも安定したスイングができるのは、ステップの歩幅が適度に狭く、前足のヒザに余裕があるからだ。体は決して大きくないが、小力があって腕っぷしが強く、前足のヒザに余裕がある状態で下半身からの回転によってスイングができているから、スイングスピードが速い上に安定したスイング、そして巧みなバットコントロールを両立できている。

 本来は足を上げると上半身や目線がぶれてスイングが安定せず、特に縦の変化球についていけなくなるものだが、森はそれほど足を大きく上げているわけではないから頭の高さも維持できているし、足を上げることでうまくタイミングが取れている。

 何より前足を着地するのが早い。着地した時点ではまだバットが後ろに残っており、そこからスイングが始まるイメージだ。多くのバッターは前足が着地したときにはすでにスイングが始まっているが、森のようにバットが後ろに残っていれば、コンマ何秒かの話ではあるが、ボールを探す時間が生まれる。ボールを探しながら打つのと、探してから打つのでは、ボールをとらえる確率には天と地ほどの差が生まれる。

 今シーズンは低めに沈むボールにも態勢を崩されることなくしっかり対応し、逆方向へ強い打球を放っていた。持って生まれた器用さもあるが、ボールを長く見る時間があり、ヒザに余裕があるから、相手が打たせまいと投げ込んでくる7つ8つの変化球にも対応することができる。無茶振りではあるが、バッティングに応用が利くのだ。

 さらに言えば、構えたときからグリップが高い位置で決まっているのも良い点だ。巨人の丸佳浩はヒッチする、つまり一度グリップを大きく下げ、その後、またグリップを上げていく。結果的に高い位置にグリップがあるから、バックスイングでしっかりと力をためることができているのだが、やはりグリップを下げて上げるという動作がムダな動きであることに変わりはない。

 森は高い位置からさらにわずかにグリップを上げながらバックスイングへ移り、十分に力をためて最短距離でバットを出していくことができている。ムダな動きがないから、ボールを長く見る、前足を早く着地させるといった時間的な余裕が生まれ、スムーズにスイングしていくことができるのだ。

 精神面でも強い部分があるのだろう。見ている限りは闘志が表に出てくる性格のようだし、それが得点圏打率.411という勝負強さにつながっているのではないか。

打率3割5分くらいは軽々と打てるはずだ


 森は本質的にはホームランバッターではなく、中距離バッターだ。右に左に強い打球を打つことができる上に確実性も高い。まだ24歳だが、すでにかなりの完成度を誇っている。ただし、一つ注文がある。首位打者の価値を落とすわけではないが、これだけの高いバッティング技術を持っていながら打率.329、ホームランが23本というのは物足りない。さらに勉強して努力を重ね、練習量を増やすことで、3割5分くらいは軽々と打つバッターになれる。ホームランに関しても今年の坂本を見れば分かるように、今のボールが飛ぶ時代では中距離バッターでも40本くらいは打つことができるはずだ。

 そのために私がアドバイスできるとすれば、やはり「今の無茶振りを考え直せ」ということになる。無茶振りをしてもスイングが安定しているというのは心強い限りだが、それでも常に120%の力でバットを振っていてはどうしても確実性という点で難が生じるし、実際、インパクトの前から体に力が入り過ぎているようにも見える。それではインパクトですべての力をボールに伝えることはできない。

 今を120とするなら、スイング自体はせいぜい100でいい。もともと腕力はあるのだから、100で振ってもボールをしっかりとらえれば打球はすっ飛んでいくはずだ。少し力を抜くくらいで、ちょうどインパクトの瞬間に一番力が入るものなのだ。その境地にたどり着くのはなかなか簡単なことではないが、森にはそう期待したくなるだけの持って生まれた素質がある。

 私のような生粋のバッターからすると、一つ心配なのはキャッチャーであるということだ。ほかのどんなポジションよりも重労働であることは間違いない。まだ若いうちはいいかもしれないが、この先、年齢を重ねていったときにキャッチャーであることの負担がバッティングに悪影響を及ぼさないとも限らない。野村さんのように“生涯キャッチャー”を貫き通した大打者もいるが、将来的には、ほかのポジションを守り、より打力を生かすということも考えてもらいたいものだ。

PROFILE
張本勲/はりもと・いさお●1940年6月19日生まれ。広島県出身。左投左打。広島・松本商高から大阪・浪華商高を経て59年に東映(のち日拓、日本ハム)へ入団して新人王に。61年に首位打者に輝き、以降も広角に打ち分けるスプレー打法で安打を量産。長打力と俊足を兼ね備えた安打製造機として7度の首位打者に輝く。76年に巨人へ移籍して長嶋茂雄監督の初優勝に貢献。80年にロッテへ移籍し、翌81年限りで引退。通算3085安打をはじめ数々の史上最多記録を打ち立てた。90年野球殿堂入り。現役時代の通算成績は2752試合、3085安打、504本塁打、1676打点、319盗塁、打率.319。
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