
1971年、巨人軍寮内での寮長・武宮敏明さん。竹刀は代名詞のようなものだった[武宮さんは前回に続いての登場になる]
竹刀が血で変色……
ある日、僕は、練習で破れてしまったユニフォームのズボンの替えを希望した。二軍マネジャーの
藤本健作さんから「ロッカーにある倉庫の中にサイズの合うのがあれば、とりあえず履いておけ」と言われたので、倉庫の扉を開け、体に合ったものを探した。
ふと見ると、使い古したバットが木製のラックに縦に20本ほど並べて収納されている。しかし、その隣にあったラックはバットではなく、数本の竹刀が入っていた。竹刀……? それもそのほとんどが竹の繊維がボロボロで、ちょうど竹刀の中心付近がところどころ黒く変色している。その隣のラックには新しい竹刀がやはり数本、縦に並べてあった……。
僕と同期入団(1980年)の新人高校生は10人いたが、いずれも血気盛んなヤンチャな面々であり、今でも珍しくない「未成年の喫煙疑惑」がここ巨人軍寮でも起こった。
寮の門限は夜10時、毎日、そのつど点呼がある。通常点呼は帰館の確認だけでは終わらず、さまざまな野球のことから、その日に起こった日常の中のニュースやいろいろな話題によって、コミュニケーションが取られる。武宮敏明さんの寮長としての持論は「プロ野球の選手も社会人としてしっかりとした人間形成が必要だ」だった。
しかし、この日は武宮さんの頭から湯気が立ち上っていた。怒りに満ちた表情で武宮さんが「新人の中でタバコを吸ったヤツがいる。誰だ!」と怒鳴った。10人の新人が横一列に並ばされると、武宮さんが右端から1人目の選手に竹刀を持って近づいて行き、問い質した。「お前はタバコを吸うのか!」。武宮さんの問いに「吸いません!」と1人目の選手は大きな声で答える。2人目、「吸いません!」。武宮さんは「お前たち! 正直に言えよ、嘘をついたら承知せんぞ!」。その手には竹刀が握られている。
鬼気迫る言葉と姿に・・・
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