日本球界で実績を残し、満を持して海を渡った松坂大輔。メジャーでは1年目に15勝を挙げて、いきなり世界一に。さらに2年目にも18勝をマーク。その後、ケガに苦しみ思うような投球ができなかったが、“特別な存在”との物語はつむがれていった。(日付は現地時間) 文=石田雄太 写真=Getty Images 
07年から12年まではレッドソックスに在籍した
両者から次々とたたみかけられた質問
2014年のことだ。
ヤンキースのクラブハウスで、イチローが訊(き)いてくる。
「大輔、どんなボールを投げてるの?」
「スピードは?」
「今のフォームはどんな感じ?」
たたみかけるような質問に、「かなり力のある真っすぐを投げてるよ」「92マイル(約148キロ)は出てるんじゃないかな」「フォームは前とはまったく違うよ」と、矢継ぎ早に答えていく。するとイチローがこう言った。
「へーっ、そうなんだ」
イチローはこちらがビックリするような、嬉(うれ)しそうな顔をしていた。
一方、メッツのクラブハウスでは松坂大輔が訊いてくる。
「イチローさん、練習に出てきますかね」
「なんで腰痛めたんですか」
「対戦できないのかなぁ」
これまた、たたみかけるような質問に、「グラウンドには出てこないかもね」「ミルウォーキーでライトフライをヒザで滑って捕りにいこうとしたら、芝が土ごと剥(は)がれてブレーキがかかっちゃったみたい」「最近、どんなボールを投げてるのか、気にしてたよ」と、こちらも矢継ぎ早に答えていく。すると、松坂はひとこと、こう言った。
「これが今シーズン、唯一の楽しみだったのになぁ……」
その瞬間、松坂はこちらが想像したとおり、落胆した表情を浮かべた。
5月12日、ヤンキー・スタジアム。
ともにニューヨークを本拠地とするア・リーグのヤンキースとナ・リーグのメッツが戦う4連戦。今年の見どころは『イチロー対松坂』……であるはずがなかった。そのシーズンのイチローの役割はレギュラー外野手3人のバックアップで、松坂は先発ではなく、慣れない中継ぎが続いていた。ベンチスタートでもブルペンスタンバイでも、このシーズンのイチローと松坂は与えられた役割を全うしていた。それぞれが厳しい立場に追い込まれながらも、懸命に高いモチベーションを維持しようと努めてきたのだ。それこそが彼らのプライドだったのだろう。

06年12月14日のレッドソックス入団会見。6年契約で総額5200万ドル[約60億8000万円]だった
「イチローさんに頭、出したい気分」
さらに遡(さかのぼ)ること7年・・・