
80年代から90年代にかけて活躍したサンティアゴは、座って二塁へ送球し、強肩で人気を博した。ルール改定となったことで盗塁が増える予想だが、それに対抗し強肩のスター捕手が生まれる可能性が高い
筆者は現在60歳だが、同世代だとベニート・サンティアゴ捕手の強肩に魅了された人は少なからずいるはずだろう。両膝を着いたまま二塁に矢のような送球で走者を刺す。あの名アナウンサー、故ビン・スカリーも「信じられない」と絶句した。
立ち上がってから投げると時間をムダにする。そこでボールを受けた低い体勢のまま左膝を着き、投げながら右膝も着いて矢のような送球。1980年代は今と違ってリッキー・ヘンダーソンやビンス・
コールマンといったスピードスターが存在し、年に3ケタの盗塁をマーク。彼らに対抗するには鉄砲肩の捕手が必要だった。中でも傑出していたのがサンティアゴで、同じナ・リーグのコールマンやティム・レインズとの勝負は試合のハイライトになった。
87年に新人王選出、88年には盗塁57回を許すも46回刺し阻止率45%、初のゴールドグラブ賞に輝いた。「投手がチャンスをくれれば、俺から盗塁できる選手はメジャーに誰もいない」と言い切った。89年にはスポーツ・イラストレイテッド誌の野球開幕号の表紙を飾り、メジャーの看板選手に認定された。
しかしながら近年はアナリティックで野球の戦術が変わり盗塁数が激減、2018年以降は盗塁王でも50個以下だった。ゆえに強肩捕手が必ずしも重要ではなくなっていたが、今回のルール変更で80年代に戻りそうだ。
現地時間4月23日時点で盗塁王のブレーブスの
ロナルド・アクーニャ・ジュニアが22試合で12盗塁、次いでカブスの
ニコ・ホーナー、オリオールズの
セドリック・マリンズが9盗塁だ。通常、4月はまだ寒いから走者はあまり走らない。暖かくなってくればもっと積極的になっていく。
加えて新ルール効果で、今季のリーグの盗塁成功率は80.8%で、とりわけ三盗は94.1%ととても高い。走らない手はない。アクーニャ・ジュニアは今のペースで最後まで行けば88盗塁だが、ひょっとしたら3ケタに近づくかもしれない。そうとなると、鉄砲肩の捕手が求められる。
ちなみにスタットキャストのデータによると、今季送球の速さだけならトップはカージナルスのウィルソン・コントレラスとアスレチックスのシェイ・ランゲリアーズで平均87.4マイル。しかしながらそれだけではなく、ミットからボールを瞬時に抜き取り、機敏なフットワークで素早く投げないといけない。
捕手の送球で重要なのはポップタイム(POP TIME/POP)という指標。投手の投げた球が捕手のミットに収まった瞬間から、送球が狙ったベースの真ん中に届いたであろう時間(秒)を示す。二塁へのポップタイムで1位は近年この部門で常にトップであるフィリーズのJ.T.リアルミュートで1.82秒。今季は13回盗塁を許し、7回刺し、阻止率35%だ。
2位はレッドソックスのコナー・ウォンでポップタイム1.87秒。4回の盗塁で4回刺し阻止率50%。ほかにはダイヤモンドバックスのガブリエル・モレノ、アストロズの
マーティン・マルドナード、ロッキーズのエリアス・
ディアスらが1.90秒だ。
傑出したタレントがわんさといるメジャー。近い将来、サンティアゴのような捕手が
颯爽と登場することを期待したい。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images