
常勝ドジャースの先発の軸として活躍中のウリアス。しかし、これまで8回さえ投げ切ったことがない。チームの方針であるが、そういう部分も新しいDH制で変わることができるか!?
MLBはプロ野球の娯楽性を向上させるのに一生懸命だ。マイナーで新しいルールをテスト、取捨選択し、メジャーに導入していく。2023年のピッチクロック、シフト制限、大きなベースなどは成功。おかげでゲームのテンポは良くなったし、ヒットや盗塁といったアクションが増えた。
近年のMLBでは、試合に勝つために球団フロントが採用したアナリティック重視の戦術が、皮肉にも野球の娯楽性を薄める事態になっていた。そうではなくファンが見たいものを提供する。そのコンセプトでMLBは工夫を続ける。
現在、興味深いのは独立リーグのアトランティック・リーグでテストしているダブルフックDH制という新しい指名打者制度だ。先発投手が5回を投げ切れずに降板すると、その後は指名打者を失い、その打順は投手が打つか、代打を出さねばならないというもの。
このルールの一番の狙いは、先発投手の価値を取り戻すことにある。プロ野球は長い歴史の中で、先発投手のマッチアップでチケットを売ってきた。しかし最近、先発投手は早いイニングで交代し、オープナーやブルペンデーの日もある。サンディ・コーファックスがシーズン27完投をした1960年代には戻れないが、少なくとも先発投手がきちんと脚光を浴び、誰がプレーボールのマウンドに立つかが、勝負に大きな影響を与えるゲームに戻したい。
ちなみに今季、日本人投手が先発したのは46試合。5回を投げ切れなかった試合は11度あった。そのうち3度は
藤浪晋太郎の日。制球難でゲームを壊した。
菊池雄星は4度で、ご存じのように良い日と悪い日がはっきり分かれるタイプだ。
トミー・ジョン手術(側副じん帯再建術)から復帰の
前田健太も、安定せず2度早く降板した。このルールを使えば、ブレント・ルーカー、バイロン・バクストンのようなチームきっての強打者が途中から出られなくなる。誰を先発させるかはとても重要で、DHを失いたくないから、多少調子が悪くても我慢して5回までは投げさせるのだろう。
これは面白いルールだと思う。近年のMLBでは試合に勝つために、投手は早めに交代させてきた。アナリティックが先発投手に打順の3巡目に投げさせるよりは、リリーフに代えたほうが良いとデータで示していたからだ。おかげで14年の時点で、先発投手のクオリティースタート(QS)率が54%だったのが、今では35%と著しく下がった。
今季の日本人選手では、QSは46試合中17試合で37%だ。
千賀滉大は9試合に先発し、6回を投げたのは4度だけで日本のファンには物足りない。ドジャースのフリオ・ウリアスはメジャーきっての才能豊かな投手で、登板試合の勝率も高い。しかしながらチーム方針で、111試合に先発しながら、球数は多くても101球、8回のマウンドでアウトを取ったことがない。
同じメキシコ出身左腕でも、通算113完投の
フェルナンド・バレンズエラほど人気がないのは、起用法ゆえではないかと思う。プロ野球の娯楽性を向上させるには、ウリアスのような才能ある投手がもっと目立ち、脚光を浴びられるルールにしていくべきなのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images