
連続マルチヒットで4割に乗せ、維持しているアライズ。シーズン終了まで夢の4割を打ち続けてほしい
マーリンズのルイス・アライズが6月3日のアスレチックス戦の5打数5安打に始まって5試合連続マルチと打ちまくっている。この5試合は21打数14安打で、打率を.374から.403まで上げた。
そこで4割への挑戦が話題になっている。最後にメジャーで4割打者が出たのは1941年のレッドソックスのテッド・ウィリアムスで.406だった。その後、たくさんの打者が挑戦したが届かない。マリナーズの
イチローの全盛期は「今4割を打つならイチロー」と言われ続けたが、最高打率は2004年の.372だった。
アライズはパワー全盛の時代に久しぶりに出てきた真のコンタクトヒッターなのである。身長177.8センチ、体重79.4キロ。みんなが打球速度や打球角度、ハードヒット率やバレル率を気にする中、わが道を行き、シングルを打ち続ける。ここまで87安打だが、本塁打は1本、三塁打も1本、二塁打が15本、単打が60本だ。
打球は速くないが、どんな球種でもコースでも確実に打ち返す。三振は11個、四球も19個と少ない。これはボール球の32.1パーセントを振るなど、ストライクゾーンの外の球にも手を出すからだ。それでも傑出した当てる技術があるから空振りは少ない。
ストライクゾーンの球は振れば94.1パーセントコンタクトできるし、ボール球も89.5パーセントだ。ボール球のコンタクト率はリーグ平均より31.3パーセントも高い。そして三振率は4.8パーセント(リーグ平均は22.7パーセント)である。なぜバットに当てることを重視するのかと聞かれると、アライズは「三振が大嫌いだから。たくさん出塁したいから」と答えている。
近年、セイバーメトリクスの世界では、アライズのような単打ばかりで四球が少ないコンタクトヒッターは価値が低いとされてきた。だが今季の彼を見てあらためて思うのは、どんな球でも対応でき、芸術作品のようにダイヤモンドに打球を散りばめる安打製造機も野球の魅力の一つということだ。打者もいろいろなタイプがいるから面白く、野球は多様であるほうが娯楽性が増す。
さて4割への挑戦だがチームが開幕から62試合を戦い終えた時点で4割を超えていたのは1941年以降では10人。一番数字が高かったのは97年のロッキーズのラリー・
ウォーカーで.422だった。08年のブレーブスのチッパー・
ジョーンズは.421。しかしながらウォーカーは、7月17日以降は4割から落ち最後は.366。ジョーンズも6月18日までで最後は.364。シーズン終盤まで4割を超えていたのは80年、ロイヤルズのジョージ・
ブレットで9月4日、134試合目までで、最後は.390だった。
こういった前例を見て分かるように4割達成は難しい。そして40年代と現代では投手のレベルが質量ともにまったく違う。アライズはここまで116人の投手と対戦したが、ウィリアムスが41年に対戦したのはシーズンを通して74人だった。その年ア・リーグで投げた投手は111人だけだった。しかも現在の投手の球は速く、変化球も多彩。難しいとは思うが、何とか終盤まで4割を維持し、球界を盛り上げてほしいと思う。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images