
打撃妨害になっても、ストライクと見られるために1.5センチでもホームベースに近づいているというヘッジス[写真]。そうしたフレーミングがMLBの主流になっている
現在、メジャーでフレーミングの名手と言えば、パイレーツの
オースティン・ヘッジス捕手、30歳である。スタットキャストのデータによると、ストライクゾーンからほんの少し外れたエリアのボールを巧みな技術で52.5%もストライクにしている。特に右打者の外、左打者の内のエリアは69.7%、低めは60.1%だ。
ここまで52試合スタメンでマスクをかぶっているが、たくさんストライクを奪い、メジャートップの「10得点」をセーブしたと弾き出されている(2位はレンジャーズのヨナ・ハイムで8得点)。しかしながら彼は先日、本拠地球場で何度も地元ファンのブーイングを浴びた。
理由の一つは打率.179、OPS(出塁率+長打率).462と打てないことにある。パイレーツは先月、2021年のドラフト全体1位指名捕手、23歳の
ヘンリー・デイビスをメジャー初昇格させた。外野で起用し、スタメン14度で打率.296、OPS.756とまずまずだ。なぜ捕手で起用しないのかとファンは不満なのである。加えて、ヘッジスは打撃妨害が4度と多い。
パイレーツのベテラン左腕リッチ・ヒルは「サボっていてのブーイングは仕方がないけど、彼はそうではないんだ。毎日すごく頑張ってくれているよ。そこは、守備で最高の捕手と呼ばれるだけのことはある。チームや投手陣への貢献度を考えると、打率以上の価値がある」と擁護している。
AP通信が先日特集をしていたが、メジャーでは近年捕手の打撃妨害が増えている。特に被害をこうむったのはホワイトソックスのルイス・ロベルト、エンゼルスの
大谷翔平、アスレチックスのエステリー・ルイーズでそれぞれ5度だ。メジャー全体では、7月5日まで62度で、昨年の同じ時期の1.5倍。
ちなみに1974年以降、メジャーで一番打撃妨害が多かったシーズンは22年で74度。次は21年で62度だった。近年増加傾向で、今季このペースなら3ケタに届くだろう。だがヘッジスは、フレーミングでストライクを増やすためにはある程度は仕方がないと説明する。
「なるべく打者寄り、ホームベースの近くで捕球しようとしている。前で捕球したほうが、球審の目にストライクに見えやすいし、特に低めはそうだ。結果今季かなりキャッチングのデータが良くなった。もちろん打撃妨害は良くないけど、少しくらいは仕方がない」
わずかな違いだが1~1.5センチ前で受けているそうだ。ヘッジスだけではない。チーム別で一番、打撃妨害が多いのはジャイアンツで7個だが、フレーミングによるストライク率はジョーイ・バート捕手が54.1%、パトリック・
ベイリー捕手が52.4%と高い。
タイガースのジェイク・ロジャーズ捕手も打撃妨害4度だが、フレーミングの数値は良い。投手対打者の対決は、カウント一つで優位性が著しく変わる。
1ボール1ストライクのカウントから、ボール球がフレーミングでストライクになったとしよう。19年のデータだが、カウント2ボール1ストライクなら打者の平均打率は.351だが、1ボール2ストライクなら打率は.161。だから打撃妨害のリスクを冒しても、名手は少し前で受けるのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images