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【MLB】右肘じん帯損傷の大谷翔平 2度目のトミー・ジョン手術かそれとも……

 

セカンドオピニオンでの結果を待っている大谷だが、よりよい形での二刀流復帰を、ファンも期待している。医療技術も進歩しているだけに、どう判断していくだろうか


 エンゼルスの大谷翔平選手が右肘じん帯の損傷で、今季はもう登板しないことになった。そこで2度目のトミー・ジョン手術(側副じん帯再建術)を受けるのではと言われている。思い出すのは10年前、日本人メジャー・リーガーにトミー・ジョン手術を受ける事態が続出し、集中的に取材を続けていたときのことだ。

 ドジャースのメディカルスタッフから「手術もその後のリハビリも進歩し復帰の確率は著しく高まった。しかしながら2度目の手術は依然リスクがある。復帰までにより時間がかかるし、成功率も低くなる」と教わった。

 だが医療は日進月歩で進化している。2度目でも復帰後、成功できる選手が少しずつ増えてきている。今季11勝3敗と絶好調のレンジャーズのネーサン・イオバルディは2度の手術からの復帰。ブルージェイズの柳賢振も昨年の6月に2度目の手術を受けたが今年8月1日に復帰、5試合に投げて3勝1敗、防御率2.25である。

 ドジャースのウォーカー・ビューラーも昨年8月に2度目だったが、今年9月に復帰しようとしている。ジェームソン・タイヨンは2度の手術後も好成績を残したことで、カブスと昨オフ4年総額6800万ドルの契約を結べた。こういった成功例が背中を押す。今年もレンジャーズのジェイコブ・デグロムが6月に2度目の手術に踏み切り、レイズのシェーン・マクナラハンも8月に手術を受けた。

 これまでMLBの選手がトミー・ジョン手術を受けた件数は2000件を超えるが、複数回受けたのは148人だ。専門医は「1度目の復帰率は80〜90%だが、2度目はそれほど高くない。どれくらいの期間で復帰できるかもケースバイケースだ」と現状を語る。

 そんな中、ポジティブなニュースは前田健太(彼は1回目だったが)が受けたインターナルブレースを使った手術も選択肢に加わっていること。トミー・ジョン手術は断裂したじん帯に代わって、腱を移植する再建術で、上腕骨と尺骨に穴を開けないといけないし、腱がじん帯として定着するまで時間がかかる。

 一方でインターナルブレースは2つの小さなプラスチックを骨にくっつけ、コラーゲンをコーティングした繊維のテープで結ぶ。ブレースだけだと復帰は早く、NFL(プロフットボール)の49ERSのQBブロック・パーディは6カ月で実戦に戻れた。野球選手についても大学生だが10カ月で戻った例がある。

 ただしまだ症例が少なく、2020年のオフに肘の手術を受けたジャスティン・バーランダーはインターナルブレースも薦められたが、「情報が少な過ぎる」と断った。あるいは21年9月の前田のように従来のトミー・ジョン手術とインターナルブレースを組み合わせたハイブリッド手術を選ぶ。

 手術を行ったキース・マイスター医師はハイブリッド手術には2つのメリットがあると言う。「一つは生体力学的なアドバンテージで、じん帯がより強化される。もう一つは生物学的なアドバンテージで、腱がじん帯として周囲の組織になじんでいくのをテープが助けてくれる」とのこと。

 医療は日々進化する。大谷が目いっぱい腕を振れる日が再びやって来ることを期待したい。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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