
通算11度の開幕投手を務めたヘルナンデス。絶対的エースとして8年連続2ケタ勝利を挙げたが、通算169勝と野球殿堂入りには厳しい数字だ。メジャー・デビューを1990年代にした選手で殿堂入りした割合は、1%を切っている。今までの積み重ねてきた数字だけでなく、時代に合った新しい基準も考えるべきだろう
1月21日、2025年度のアメリカ野球殿堂入りの投票結果が発表される。投票者はBBWAA(全米野球記者協会)のメンバーで400人弱。投票者は年に10選手まで投票できるが、傾向を見ると3人から5人しか入れない少人数派と、ほぼ10人に入れる大人数派に分類される。
例えばフィラデルフィア・インクワイアラー紙で37年間にわたりスポーツを取材してきたマーク・ナーデューチ記者は自身の投票を公開、
イチロー、C.C.サバシア、ビリー・ワグナーなど5人にしか入れなかった。彼は一貫してステロイドに関与したとされる選手には投票せず、今回もアレックス・
ロドリゲスやマニー・
ラミレスに入れなかった。さらに17年のアストロズによるサイン盗みスキャンダルで首謀者の一人だったカルロス・
ベルトランにも入れなかった。
一方でUSAトゥデイ紙のスティーブ・ガードナー記者は10人に入れた。とりわけ先発投手でC.C.サバシア、
フェリックス・ヘルナンデス、アンディ・ペティット、マーク・バーリーの4人に投票した。選手が投票対象になるのは10回目までで、それまでに75%の得票を得なければならない。ペティットは前回の投票は6回目で13.5%、バーリーは4回目で8.3%の得票で、おそらく最後まで選出されないだろう。
だが、ガードナー記者は近年先発投手の起用法が変わり、300勝3000奪三振など、これまで何十年も使用されてきた歴史的な基準が、年々非現実的になり、将来的には先発投手という存在自体が野球殿堂で絶滅危惧種になると主張。あえて彼らにも入れた。
大人数派は近年殿堂入りが以前よりも狭き門になっていると考える。1871年から1999年の間にデビューしたメジャー・リーガーは1万7610人いるが、そのうち殿堂入りは1.56%の274人。
そして50年代までにデビューした選手は2%以上の割合で殿堂入りしていたのに、70年代、80年代のデビュー選手は2%未満、90年代の選手は1%未満と下がってきた。近年先発投手のみならず、野手も休養を取らせながらの起用が当たり前になってきている。ゆえに野手にとっても3000安打、500本塁打などの歴史的基準が到達困難になっている。
BBWAAは1年前こそエイドリアン・ベルトレなど3選手を選出したが、それ以前の4年間で選んだのはトータルでわずか4選手だった。野球は時代とともに変わる。だから投票者は古い基準を妄信するのではなく、新しい基準を考えていくべきなのだろう。
例えばOPS+、ERA+のようなAdjusted(調整)された指標だ。リーグ平均を100としてその選手のシーズンにおける傑出度を測るもので、傑出度によって異なる時代の選手を比べる。
あるいはWAR(総合的評価で選手の貢献度を表す指標)についてもキャリア全体のWARだけでなく、WAR7(全盛期の7年間のWAR)を比較する。
岩隈久志のチームメートだったヘルナンデスは「キング・フェリックス」の愛称でマリナーズの絶対的なエースとして君臨、11回の開幕投手を務めた。だが30歳を過ぎてから成績が急降下、通算169勝、2524奪三振と比較的低い通算成績だった。
傑出度が大事か、積み上げた数字が大事か、今後投票者たちは思案していく。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images