
今季メジャー移籍の佐々木朗希。現在のルールでは25歳以上でプロ入り6年以上を満たさない選手は、16歳のアマチュア選手と同じ契約になってしまう。国際アマチュア選手についてはルールがいろいろと改正されているが、まだ考えなければいけない課題は山積みだ
MLBの労使協定CBA(Collective Bargaining Agreement)とは、選手会(MLBPA)とチーム所有者(オーナー)との間で交渉された契約。選手の給与、労働条件、ドラフト制度、年金、健康保険、競技規則など、メジャー・リーグに関わる多くの事柄を取り決める。だいたい5年ごとに更新されるが、交渉過程では選手会とオーナー側が互いの利益を守ろうとするため対立が生じ、ストライキやロックアウトといった事態に発展することもある。駆け引きの末、双方が妥協点を探ったりするため、結果、奇妙なルールが生まれることもある。
今回の佐々木朗希の件もそうだろう。国際アマチュア選手の契約はドミニカ共和国やベネズエラ出身の16~17歳がほとんどだが、2016年に結ばれたCBAから25歳以上で6年以上のプロ経験がないと、佐々木のように日本で4年もプロ経験がある23歳が、高校生の年齢の選手と一緒にされてしまう。
きっかけは14年12月にキューバのプロ出身の24歳、ヤズマニー・トマスが争奪戦の末、6年総額6850万ドルの大型契約をダイヤモンドバックスと結んだことだ。同じことが起きないようにとルールがつくられた。
しかし日本、キューバ、韓国出身の22~24歳のプロ選手と16歳のアマチュアを一緒にするのはどう見ても不自然だ。ちなみに21年オフの労使協定の交渉では国際アマチュア選手の契約についてオーナー側はドラフト制度を取り入れようとしたが、組合側の反対でそうはならなかった。
ドラフトになっていれば、佐々木は今回のように複数の球団と面談をして、球団を自分の意思で選ぶことはできない。それでも本人がメジャー移籍を選択したかどうかは、若干気になるところだ。
ちなみに国際アマチュア市場で、各球団が使える契約金に厳しく上限が付けられたのも16年のCBAから。24年度は、ドミニカから546人、ベネズエラから365人、メキシコから52人、パナマから26人、コロンビアから24人、キュラソーから11人など1000人を超える若者がメジャー球団と契約したが、当然少しでも高額の契約金が欲しい。
そして25年は例年にはないことが起きた。ドミニカ共和国出身のダレル・モレル遊撃手は、ドジャースと契約する予定だったが、ドジャースは佐々木獲得の本命とされ、佐々木の分のお金を残しておくため、国際契約が始まる1月15日までに確約できなかった(※1月18日佐々木はドジャースとマイナー契約で合意したことを自身のSNSで発表)。今年ドジャースが使える金額は510万ドルとジャイアンツと並んで30球団で最も少ない。そこでモレルはパイレーツに乗り換え、契約金もドジャースの提示していた金額の2倍、180万ドルで合意した。さらにベネズエラ出身のオルランド・パティーニョ外野手も、ドジャースからホワイトソックスに変更。パティーニョの契約金も57万ドルで、ドジャースの40万ドルより多くなった。
選手をお世話するトレーナーが、急遽トライアウトを開き、他チームからのオファーをもらったのである。モレルも、パティ―ニョも結果的に金額が上がったから良いが、約束を反故にされ、著しく金額が下がった選手や関係者は怒り心頭だろう。
来年以降このような事態が繰り返されるとは思わないが、ドミニカの野球指導者たちは今回の事態を受け、ルール改正をMLBに提案している。
文=奥田秀樹 写真=牛島寿人