
佐々木麟太郎が参加するNCAAのレベルはここ最近高い。ドラフト後2年以内のメジャー昇格は2017から6年間で51人に対し、23年からの2年間で50人と大幅に増加。佐々木は最優秀新人候補の一人だ
2月14日にNCAAの野球シーズンが始まった。佐々木麟太郎が所属しているスタン
フォード大も、南カリフォルニアに遠征、カリフォルニア州立大フラトン校相手に3連戦を戦った。次週は21日から本拠地にワシントン大を迎えて4連戦である。公式戦は5月中旬の遠征、ノースキャロライナ州立大3連戦まで組まれている。そのあとは5月20日から所属するアトランティック・コースト・カンファレンス(ACC)のトーナメントに出場。
開催地はノースカロライナ州ダーラムで所属全16チームが参加。トーナメントのシード順は公式戦の成績に基づいて決定され、上位4チームは準々決勝からのスタート。5~8位のチームは2回戦から、9~16位のチームは1回戦からプレーする。
ちなみにACCは全米でもレベルが特に高く、「ベースボール・アメリカ誌」のプレシーズン・トップ25には7チーム(5位バージニア大、6位フロリダ州立大、8位クレムソン大、10位デューク大、12位ノースキャロライナ大、16位NCステート、17位ウェイクフォレスト大)がランクイン。スタンフォード大はこの7校に次ぐ実力と予想されている。佐々木にとってありがたいのはレベルの高い環境で腕を磨けること。
近年NCAAの野球レベルは上昇傾向、出身選手のメジャー昇格スピードは、かつてないほど加速している。2023年と24年のMLBシーズンでは、ドラフト後わずか2年以内でのメジャー・デビューを果たした元NCAAの選手が50人。24年のナ・リーグ新人王、パイレーツの
ポール・スキーンズや、25年のナ・リーグ新人王争いで、
佐々木朗希の最大のライバルと目されるナショナルズのディラン・クルーズ外野手などがここの出身だ。ちなみに17~22年の6年間で、ドラフト2年以内にMLBデビューしたNCAAの選手は51人だった。
レベルが上がった理由は、トップ大学の野球施設がプロ野球に匹敵するほど充実していること。コーチ陣やスタッフも優秀だ。加えてMLBの労使協定でルールが変わり、球団はプロスペクト(有望株)を早めに昇格させるようになった。高校からプロ入りしなくても、大学経由のほうが、結果的に早くメジャーに昇格できる可能性が高まった。
さらに導入されたNIL(ネーム・イメージ・ライクネス=肖像権収入)制度で多少の経済的恩恵も受けられるようになった。おかげで、優秀な人材が集まっている。例えば4月11日からのクレムソン大戦で対戦するカム・キャナレラ外野手は走攻守そろった逸材で今年のMLBドラフトでトップ5に指名されると言われている。公式戦では当たらないがフロリダ州立大の左腕ジェイミー・アーノルドは全米でもトップクラスで昨季は防御率2.98、159奪三振、26四球の好成績。速球は最高97マイルで、次のドラフトで最も優れたスライダーを持つと評価されている。
そんな中でも、佐々木はNCAA球界の最優秀新人候補と期待はとてつもなく大きい。公式戦中、5度も東海岸遠征が組まれており、学業との両立などで大変だが、レベルの高い環境に身を置くことで、将来のMLB入りが見えてくるのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images