
27歳にして、最多セーブ3度に輝いたクラセの賭博問題は、大きな話題となった。目の前の数千ドルのために、将来の数億ドルを捨てたのだ。今度、どんな裁定が下るのか注目が集まる
プロスポーツにおける「健全性(Integrity)」とは何か──その根本を揺るがす事件が、ガーディアンズのエマヌエル・クラセとルイス・L・オルティス両投手の起訴だった。
わずか数千ドルの見返りのために、オールスター選出3度、最多セーブ3度、通算防御率1.88の27歳がキャリアを失うリスクを冒す。今季の年俸は490万ドルだったが、2026年は640万ドル、27年、28年は1000万ドルの予定だった。
ロブ・マン
フレッドMLBコミッショナーは、「スポーツブック業界とはここ7年間、ファンのために競技の健全性を守るという最優先事項のもとで協力してきた」と述べた。特定投球に対する異常な賭けが検知されたと知らせてくれたのはスポーツブック業界だ。
しかしながら発覚まで2年以上を要したという事実は、合法スポーツ賭博の急拡大が生んだ負の側面である。アメリカでは今、38州とワシン
トンDCでスポーツ賭博が合法化され、テレビでもスマホでも賭けの広告が流れ続ける。
MLBは数十億ドル規模の収益を得る一方で、選手、ファン、リーグ全体を巨大な誘惑の中に置くことになった。クラセのように才能があり、たっぷり報酬も得ている若い選手でさえ、手を出してしまう。1919年のブラックソックス・スキャンダルで知られるようにMLBと賭博の歴史は長いが、インターネットの発展で今ほど身近にあったことはない。
しかも「特定の一球」を対象とする「マイクロプロップ賭け」では、スライダーをワンバウンドさせるだけで賭けに協力できてしまう。新たな市場ができてしまったことで、より選手の倫理と競技の公正性を守ることが難しくなる。
事件を受け、MLBはアメリカ主要スポーツブック会社と合意し、投球単位の賭けに上限200ドルを設け、パーレー(複数賭け)への組み込みを禁止した。「不正の動機を減らす構造改革であり、競技の健全性を守る」とコミッショナー。
だが問われるのは、さらに深い問題だと思う。スポーツはビジネスとして拡大を続けながら、公正さという魂を守ることができるのか。もしファンがプレーを疑い始めたら、MLBは価値の多くを失う。この問題の本質は、巨額の利益と競技の純潔性、その両立が本当に可能なのかという問いである。
プロスポーツを管轄するアメリカ上院の商業・科学・運輸委員会のテッド・クルーズ議員とマリア・キャントウェル議員は、コミッショナーに書簡を送り、新たなインテグリティ(公正性)の危機への深い懸念を示し、「試合の公正性は最優先事項であり、MLBには野球を不正操作や影響から守る最大の責任がある」とし、今回の事件についての詳しい説明を求めている。
ちなみに同委員会は10月にはNBAに書簡を送り、コーチや元選手らが起訴された賭博スキャンダルへの対応を問うなど、複数のリーグで不正操作問題を調査している。
「一度だけの試合操作であれば異例の出来事として片付けられるかもしれないが、複数のリーグで操作が発生しているという事実は、より深い構造的脆弱性を示唆している」と同委員会。
本質の部分にしっかり向き合わない限り、監視システムvs不正のいたちごっこは続くのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images