
昨年のオープン戦で試され、今季から本格的にMLBで導入されるロボット審判。これまで以上に投手はゾーン内で勝負することを求められる
2026年シーズンは、いわば「ロボット審判元年」となる。導入されるのは、自動ボール・ストライク判定(ABS)のチャレンジ制度だ。各試合でチームに与えられるチャレンジは2回。
投球判定直後に、捕手、投手、打者のいずれかが頭をタップすることで申請できる。判定が覆れば回数は減らない。延長戦に入り、チャレンジを使い切っていた場合は、1イニングごとに1回のチャレンジが追加される。
果たして試合はどう変わるのか? 良いのは処理速度の速さだ。ニューヨーク本部に連絡して、そこにいる審判たちが映像を繰り返し見るリプレー検証とは違う。
チャレンジが発動されると、結果は数秒で表示される。1回のチャレンジに要する時間は10〜15秒ほど。1試合あたり平均4回程度と想定すれば、追加される時間は40〜60秒に過ぎない。
実際、25年の3Aでは、1試合平均約290球のうちABSチャレンジは4.2回で、平均試合時間は2時間44分で、ABS導入前の22年(2時間43分)とほぼ同じだった。
加えて捕手のフレーミングが無意味にならないのも良かった。MLBが完全なロボット審判制(全球ABS)を採用していれば、捕手のフレーミングは完全に意味を失い、役割は後ろに逸らさず捕る、盗塁阻止の送球に備える程度に限定されてしまっていた。
しかしチャレンジ制ゆえ、投球の98%以上は、引き続き人間が判定する。ボーダーラインの球をストライクとして
コールしてもらう価値は変わらない。
フレーミングの名手と言われるジャイアンツのパトリック・
ベイリー捕手は「当初思っていたほど、ゲームを変えるものではない。大きなミスをなくすだけだ」と語っている。
一方で投手には厳しい制度になる。3Aではここ数年、ストライクゾーンが明らかに投手不利になっていた。メジャーならストライクと判定されるようなボーダーラインの投球も、3Aではボールになっていた。
チャレンジ制度は、審判に対して常に判定のフィードバックを与える。誰も自分の誤審が繰り返し映し出されることを望まないため、審判が早い段階でゾーンを修正してきた。これがメジャーに導入されるわけで、投手は今まで以上にゾーン内で打ち取る能力が求められる。
そしてチャレンジにはチーム戦略が必要。2年前、元ジャイアンツの救援右腕ジョン・ブレビアが、3Aでのリハビリ登板中に1イニングで2回のチャレンジをすべて使い切ったことがあった。
マイナーなら笑い話だが、メジャーの公式戦で起きれば致命的になりかねない。ルール上は捕手、投手、打者がチャレンジできるが、特に投手はボールの軌道を完全には見切れない。
25年のメジャーのオープン戦288試合による実験で判定の覆り率は全体で52.2%。成功率は捕手56%、打者50%、投手41%だった。少なくとも試合の序盤は捕手に任せたほうが無難だ。
そして、判定を巡る口論はほぼ姿を消す。選手や監督が審判に揺さぶりをかけたり、抗議する場面は見られなくなる。「誤審だ」と感じたらチャレンジすればいいだけだからだ。
もっとも、かつてはこうした熱を帯びた口論がスタンドを沸かせてきた側面もある。その光景が消えることが野球にとって良いのかどうかは、まだ定かではない。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images