
ジャイアンツの新監督となったトニー・ビテロ[右]とポージー編成本部長。アマチュアでの育成手腕が買われ、メジャーの監督となったビテロ。打倒ドジャースに向けて、どんな采配をするのか、楽しみだ
サンフランシスコ・ジャイアンツの新監督に就任したトニー・ビテロは、MLBはおろかプロ野球での経験が一切ない。それにもかかわらず、編成本部長のバスター・ポージーは、総額1050万ドル(約16億円)を投じて、テネシー大から彼を引き抜く決断を下した。
ビテロの年俸は350万ドル。これにテネシー大との契約解除金300万ドル、さらに前監督のボブ・メルビンに支払う400万ドルを合算すると、この金額になる。就任記者会見でポージーは、こう語っている。
「どんな採用にも不確実性やリスクはありますが、今回は特に大きいでしょう。それでも私は人間としての彼に賭けます」
ビテロはミズーリ大で控え選手としてプレーした後、指導者の道へ進んだ。コーチとしてのキャリア初期から、その選手育成能力は際立っており、同大ではイアン・キンズラーやマックス・シャーザーといった後のスター選手を育て上げている。
2014年にはアーカンソー大へ移籍。ここでもリクルートと育成で手腕を発揮し、4年間で22人のMLBドラフト指名選手を輩出した。18年、テネシー大の指揮官に就任すると、沈滞していたプログラムは急速に変貌する。4年目の21年にはカレッジ・ワールド・シリーズ(CWS)に進出し、全米最優秀監督に選出。22年にはドラフト指名10人、オールアメリカンを8人も輩出。さらに7年目の24年にはテキサスA&Mを下して全米制覇を達成した。
トレードマークは熱血な指導スタイル。ダグアウトで吠え、激しい気性とむき出しの闘志を隠さない。加えてクラブハウスの一体感づくりにおいても大学野球界屈指と評価されてきた。話の引き出しも多く、冗談や映画の話題も豊富。MLBでも結果を残せば、野球界屈指のカリスマ的存在になると見る関係者は少なくない。
ちなみにポージーは08年のドラフト1巡目でジャイアンツに入団し、7度のオールスター選出、3度のワールド・シリーズ制覇に貢献した名捕手だ。殿堂入りも確実視される存在である。
そのポージーが、プロ経験のない指揮官を選んだ点は興味深い。前任のメルビン監督は、2年連続で勝率5割を下回ったことで解任された。今のジャイアンツは再建期ではなく、ビテロは初年度から勝利を求められる立場にあり、宿敵ドジャースを倒さなければならない。
ポージーとGMのザック・ミナシアンがビテロを知ったきっかけは、ドラフト指名のためにテネシー大をスカウトしたことだった。昨年のドラフトでは同大の内野手ギャビン・キレンを1巡目で指名したが、スカウトした際、チーム全体から漂う自信と前向きなエネルギーに強い印象を受けたという。
闘将ゆえに、敵チームの反感を買うことも少なくないが、ポージーはこう語っている。
「これはスポーツであり、エンターテインメントなんです。正直、今の野球界はピリッとした緊張感が欠けている。ファンとしては、多少の摩擦があったほうが面白い。闘争心こそが必要なんです」
果たして、異端の指揮官は、ジャイアンツを再び勝者の軌道へ導くことができるのだろうか。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images