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【MLB】ABSが変えたストライクゾーン 2026年MLBの得たもの、失ったもの

 

ABSチャレンジ制度の導入によって、正しい判定が下されるようになった。ただ、球審の傾向を読み、低めや外角を少しずつ広げていく投球術を見せる選手の力量を見る機会も減ったことになる


 2026年は、長いMLBの歴史の中でも大きな転換点として記録されるシーズンになると思う。今季から導入されたABS(自動ボール・ストライク判定)チャレンジ制度が、単に球審の誤審を訂正するだけでなく、実際のストライクゾーンそのものを変え始めたからだ。『ベースボール・アメリカ』誌によれば今季のゾーンは前年から9.6%縮小。15年と比べれば16.9%も小さくなった。特に低めの変化が大きく、下端は前年より約4.3センチ上昇した。

 かつて左打者の外角では、ホームプレートから10センチ以上外れた球までストライクになる傾向があったが、それも消えつつある。左右の打者によるゾーンの違いも過去最小となった。興味深いのは、それでも投手が対応していることだ。従来なら低めのストライクだった高さの球が見逃しストライクになる割合は、25年の66.3%から32.6%へ激減した。それでも投手は狙う高さを変えるなどして適応し、今季のストライク率は63.83%。10年前とほぼ変わらない。ルールが変われば、その中で生き残る方法を探す。投手の適応力の高さが数字に表れている。

 一方で、変化を複雑な思いで受け止める人たちもいる。31年間MLBのグラウンドに立ち、今季限りで引退する63歳のベテラン審判ラズ・ディアス。彼は、テクノロジーの影響について「今は何もかも白か黒。試合をうまくコントロールすることができない」と嘆く。その言葉には、一つの時代が終わる寂しさがある。

 もちろん以前からルール上のストライクゾーンは存在した。しかし実際の試合では、捕手のキャッチング技術や球審の感覚によって、その日のストライクゾーンが形作られていた。トム・グラビンのように球審の傾向を読み、低めや外角を少しずつ広げていくことも投球術の一部だった。

 それが今、急速に失われている。では、ABS導入は間違いだったのか。私はそうは思わない。『ベースボール・プロスペクタス』誌によれば、今季は最終週までに5483件の判定がチャレンジによって覆された。1試合平均約2.5件の「悪い判定」が減った計算になる。ゾーン境界付近では、以前なら誤ってボールとされた球の約30%、誤ってストライクとされた球の25%弱が正された。

 しかも人間は新しい制度に適応している。打者のチャレンジ成功率も8月以降は51%を超えた。機械が人間から野球を奪ったのではなく、人間が機械によって示された新しい環境への適応を始めたと見ることもできるのだ。

 野球は人間がするスポーツなのだから、ミスも含めて人間に任せればいいという従来の考え方も理解できないわけではない。それでも、私は新制度が導入されて良かったと思う。人間の球審を残し、必要なときだけ機械の助けを借りる。そのバランスは悪くない。

 ただ、忘れてはいけないこともある。100年以上、人間の目と感覚によって揺れ動いてきたストライクゾーンが、初めて明確な基準へと収れんしつつある。その結果、グラビンのような投球術の一部が失われ、長年自らの目で判定してきたベテラン審判が喪失感を抱きながら球界を去っていく。

 判定が正確になった一方で、その過程で何が失われたのか。それもまた、26年という大きな転換点を伝える貴重な記録として残しておく価値がある。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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