2016年の高校生ドラフト候補は投手に有力選手が多い傾向にある。今夏、甲子園出場には届かなかったものの、スカウトの評価を上げた投手はまだいる。ある球団の編成トップが「上位指名は間違いないだろう」と絶賛する3人を紹介していく。 古谷優人(江陵高)・家族の夢を背負う154キロ左腕
取材・文=岡本朋祐、写真=田中慎一郎 
最後の夏に最速を154キロに更新し、大会新の1試合20奪三振もマーク。全力を出し切って高校野球を終えた
一番・投手で主将。文字どおり、チームの屋台骨を背負った江陵高のサウスポー・
古谷優人は今夏、すべての力を出し切った。
同校は十勝平野の田園地帯を一望できる高台にあり、2015年に創立60周年を迎えた男女共学の私立校だ。春夏を通じて甲子園出場経験はなく、十勝地区大会を経て、夏の北北海道大会へ進出したのも今夏が2年ぶり5度目。古谷は最後の夏、悲願達成へ腕を振り続けた。
旭川西高との2回戦では自己最速を4キロ更新する154キロをマークすると、連投となった釧路工高との準々決勝では北北海道の大会最多記録を2個上回る20奪三振で完封。雨中の悪コンディションでの快投が影響したか、中1日で迎えた滝川西高との準決勝で惜敗(1対3)し、夏の甲子園まであと2勝、届かなかった。
チームを聖地へと導くことはできなかったが、母校の勝利のため、身を粉にして投げた結果、“未来”が見えてきたのは確かである。すでに今年6月4日の練習試合(対札幌日大高)で150キロの大台を突破。ウワサとなっていた北の大地が生んだ怪腕を視察しようと、帯広大谷高との十勝地区2回戦には、11球団36人のスカウトが集結。注目を浴びた中でも、シード校を相手に1失点完投と、十分過ぎるアピールを見せた。
古谷にはプロへ行かなければならない使命がある。家族の夢を背負う。
「昨夏の大会前、じいちゃんが亡くなったんです。生前に言っていたのが『プロ野球選手になった姿が見たい』と。小さいころから口にはしていましたが、明確な目標となったのは昨秋です」
最速154キロの真っすぐは16年の高校生左腕No.1で、右腕では創志学園高・
高田萌生、九産大九産高・
梅野雄吾の2人。ただ、古谷の魅力はストレートの質だけにはとどまらない。ウイニングショットにスライダーがある。江陵高・谷本献悟監督が「見たことがない。曲がり方、曲がる速度、角度、幅……。尋常ではない」と絶賛する武器を携える。
精神的にもタフだ。十勝の冬は厳しい寒さに襲われ、11月から3月まで雪に覆われる。だが、江陵高では北国名物の「雪上ノック」は当たり前。マイナス15度以下でも紅白戦で登板した。極寒の中でカーペットを敷き、18.44メートルの特設ブルペンで投げ込み。また、学校周辺のアップダウンの激しい2.8キロの周回コースを1日3周。凍結や大雪で足場が悪い中でも休むことなく、寒さを吹き飛ばすかのように走り込んだ。心身のスタミナには、誰にも負けない自負がある。「ファンに愛される選手になりたい」。これを受けた谷本監督は「現役を終わったときに、その世界で必要とされる人間になってほしい」。古谷も理解している。
PROFILE ふるや・ゆうと●1999年2月19日生まれ。北海道出身。176cm76kg。左投左打。幕別札内南小4年時から野球を始め、幕別札内中では軟式野球部に所属し、十勝地区大会4強。江陵高では1年春に背番号11でベンチ入りし、帯広大谷高との地区初戦(2回戦)で完封デビュー。主将となった2年秋、3年春と十勝支部予選初戦敗退。3年夏は2年ぶりの北北海道大会出場も準決勝敗退。千葉
ロッテ・
古谷拓哉は遠戚で、父・輝紀さんは、ばんえい競馬の元騎手。
梅野雄吾(九産大九産高)・闘争心あふれる九州の剛腕
取材・文=前田泰子、写真=上野弘明 
4月下旬の練習試合で、ハイレベルな投手がそろう九州で今年最速となる154キロをマークした
みっちりと張った太ももと上半身。鍛え上げられた肉体が梅野雄吾の最速154キロという剛腕の源になっている。加えて「誰にも負けたくない」と言い切る負けん気の強さも一級品だ・・・
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