穏やかな笑みを浮かべながら丁寧にインタビューに答える姿を見ていると、これがこの男の素顔なのだと気付かされる。だが、まったく正反対の鬼気迫るマウンドでの表情もまた、“戦う者”として、決して欠かすことのできない大きな一面なのだ。 取材・構成=吉見淳司、写真=BBM プロの世界に足を踏み入れて、もう3年目になる。しかし、いつになってもこの音を聞き慣れることはない。
「モニターで試合を見ながら考えるんですよ。『そろそろ僕かな』って」 ブルペンの電話が鳴ると、ビクリと肩が震える。予期していたとおり、グラウンドへ向かうように命じられる。
「マウンドに上がるのは常に怖いですよ」 押し寄せてくる不安や緊張。だが、ベンチを出て、グラウンドを踏んだ瞬間にスイッチを入れる。打者を威圧するあの表情が、気迫が、自然とわいてくる。「絶対に引かない」。マウンドに立てば弱気な自分はもういない。そこにいるのは、戦う覚悟を決めた一人の戦士だ。
まさかの指名漏れと運命を変えた勝負
愛知高では遊撃手を務めていた
祖父江大輔の運命が大きく変わったのが、愛知大での4年間だった。幼少期からサインをもらうほど、
桑田真澄(元
巨人ほか)にあこがれていた。それまで背が低く、肩も弱かったためにあきらめていた投手の夢。しかし体ができてきたことで、「軽い気持ちで」投手転向を決意した。
1年時から愛知大学リーグ戦に登板し、3年秋から3季連続で6勝をマーク(3年秋、4年春は二部)。4年秋には一部でMVPに輝いた。現在、マウンドで見せる鬼のような形相も、このときに磨かれたもの。
「最初はポーカーフェースでいようと思っていたんですけど、気がつけば気持ちが前面に出ていましたね。これまで野手だった分、後ろで守っていてくれる野手に弱気な姿は見せられないですし、160キロを投げられる投手ではないので、気持ちでカバーしよう、と」 荒々しさを残す青年は、磨きがいのある原石としてプロのスカウトの目に留まった。
気がつけば
ソフトバンクを除く11球団から調査書が届いていた。少しでもアピールしようと、変化球の欄には持ち球にないフォークも書いた。
「投げようと思えば投げられるだろうと思って。バレたら怒られちゃいますよね」 今でこそ笑い話だが、当時はそこまでしてもプロに進みたかったのだ。
ドラフト当日は「上位指名はなくても、下位ならあるかな」と青写真を描きつつ、チームメートの
赤田龍一郎とともに吉報を待った。しかし、待ち受けていたのは残酷な運命だった・・・
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