ビハインドとなっても追いつき、追い越す。今季、粘り強い戦いでセ・リーグ戦線を快走するDeNA。強さの秘密はどういったところにあるのか。その秘密をセイバーメトリクスの観点から探ってみた。 データ&文=DELTA 追い上げを受ける得点
差を詰めている失点
今シーズンのDeNA躍進の理由として、誰の目にも明らかなのは攻撃力のアップだろう。
5月22日時点で、平均得点は3.71でセ・リーグトップ。序盤で他チームに大きな差をつけていた状況は失われつつあるが、それでも高い得点力を誇っている。出塁率と長打力を把握するための指標であるISO(長打率-打率)はともにトップレベルにあり、内容の伴った得点力だ。
差が詰まってきたオフェンスとは対照的に、上位との差を詰めているのがディフェンスだ。9イニング当たりの失点は3.49。これはリーグで5番目の数字だが、4月は4点台だったことを考えると改善されてきた。
内容はよく、全対戦打席に対する奪三振の割合は20.1%でトップ。四死球を与える割合も7.1%とリーグで2番目の数字を記録している。失点につながる危険の小さいゴロを打たせる割合も向上しており、投手成績はかなり安定してきている。
ゴロと外野フライをアウトにする割合などに表れる守備成績は投手成績ほどよくはない。だが致命的なものではなく、多くの野手は守備でのマイナスを補えるレベルの攻撃力を発揮しているといえる。
筒香と梶谷、捕手と遊撃手の健闘が生み出す得点力
攻撃力については、ポジション別に見てみるとその内訳がつかみやすい。
これはwOBAという出塁力と長打力、2つの面から打者の得点に対する貢献度を計る指標で、各ポジションのセ・リーグの平均値に対してDeNAがどの程度上回っているかを確認したものだ。wOBAの計算式は割愛するが、精密な計算で算出したOPSのようなものだとイメージしていただきたい。
ほとんどのポジションが平均値である100%を超えている。中心打者としての活躍が光る
筒香嘉智が守る左翼と、
梶谷隆幸の守る右翼が平均を引き離しているのが分かる。

梶谷が守る右翼、筒香が守る左翼のwOBAが平均を大きく引き離している
また、目を引きやすい両選手以外にも、
嶺井博希、
高城俊人、
黒羽根利規の3選手が併用されている捕手もそれに負けないくらい高い数字が出ており、得点力のリードを広げる上で重要な活躍と言える。
参考に昨年の成績で同じ値を出してみると、昨年チームで最大の弱点だった遊撃が、今年はあと少しで平均に届くところまできている。守備が優先される遊撃手の打撃成績は伸びにくいが、
倉本寿彦、
飛雄馬、
白崎浩之の3選手が一定の働きを見せることで弱点を消せているのも今年の攻撃力アップにつながっている。
試合を壊さずに安定感のある投手がそろった先発陣
失点がコントロールされつつあるのは、先発投手陣の安定感が高まっているためだ。
DeNAはここまで9人の先発投手を起用しているが、ほとんどの投手がセ・リーグの平均失点率をオーバーしている。ただ、オーバーしてはいるものの、試合を壊し続けるような投手に先発を託さないといけない事態ではない。
ここまでのDeNAは打線の状態がよかったため、圧倒するような投球は見せられなくても、ある程度の失点で試合をつくれる先発投手をマウンドに送れれば、効率的に勝ちを重ねていける状態にあったといえる。
先発投手陣安定化の最大の要因は昨年途中に先発転向を果たした
山口俊の活躍だろう。昨年に比べ奪三振が大幅に増え四球も減少。各球団のエースとそん色のない成績を残している。「リーグでトップクラスの三振奪取能力を持った先発投手」を既存戦力からつくりだせたことは大きな成功だった。

山口ら先発陣の失点がコントロールされつつあるのも大きい
「優勝」の前提は得点力の維持
的確な補強もカギ
投打双方のプラス要素でここまで健闘しているDeNAだが、このまま走り続けるのは簡単ではない。
攻撃力の源泉である筒香の守る左翼は、本来各チームが強打者をそろえるポジションだ。しかし今年はここまで故障・不振選手が多く、筒香が1人勝ちに近い状態になっていた。もし、ほかの左翼を守る選手の打撃の調子が上向けば、図1のグラフで跳ね上がっていた左翼の数字は下がらざるを得ない。
もう1つの強みである右翼の梶谷は先日足首の故障で離脱したが、今後もまたコンディションを落とすようなことがあれば、この強みも失われかねない。梶谷は守備での貢献も大きいと見られ、今後再び離脱があれば、外野フライの処理割合などにも影響が出るかもしれない。
安定化しつつある投手陣も、現状はあくまで打線による援護があって機能する段階であり、強みにとするにはレベルアップが必要だ。
ここから7月末までの間にチームの状態をよく見据えた的確な補強を行えるかどうかも、夏以降の戦いを左右しそうだ。