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第97回都市対抗野球大会展望

【都市対抗2026】王子・進化を続ける「超挑戦」 史上6度目の連覇へ、前年王者が挑む

 

昨夏の都市対抗で21年ぶり2度目の優勝。前回王者は予選免除の推薦出場である。この1年間、万全の準備を進めてきた。ターゲットは一つ。史上6度目の連覇への挑戦である。
取材・文=大平明 写真=矢野寿明

就任5年目の湯浅監督は7月23日の組み合わせ抽選会でJR北海道クラブとの対戦が決まり、気を引き締めた表情を見せた


合言葉は「凡事徹底」


 7月23日の組み合わせ抽選会を終え、王子・湯浅貴博監督(享栄高)は、落ち着いた表情で取材に応じた。

「決勝を終えたときには翌年の開幕戦で戦うことが決まっていたので、一番長く準備することができる。ですから、その1年間でどのような用意をしておくのか。そして、選手たちにどのようにして落とし込んでいくのかが課題だと感じていました」

 思いどおりにチームづくりが進んでいるのかを見定めて確認してきた。

「優勝するための練習がなされているのか、常に自問自答していました。山あり谷ありでしたが、うまくいっていないときも1日1日を振り返りながら、『日本一にふさわしい練習、ふさわしい振る舞いをしよう』と繰り返し選手に声を掛けていました」

 同時に「いつ強化練習をするのか。いつ休息を取るのかといったことを期分けし、選手にもいまは何をする時期なのかが分かるように話をしてきました」とコミュニケーションをとり、指導者と選手が共通した認識を持って日々を積み重ねてきた。

 王子はバッテリーを中心とした守りからリズムをつくり、攻撃へとつないでいくスタイルが持ち味だ。

「ミスなく相手に流れを渡さないチームが勝ち続けられるチームだと考えていて、自分たちから転ばないことが大切なんです。ただ、野球はミスが多いスポーツですから、そのなかでいかにミスを少なくしていくのか。ミスが出たときにどのようにカバーしていくのか。どのように前向きになって勝利という結果につなげるのか。いつも頭を悩ませています」

 大事にしているのが凡事徹底だ。

「些細(ささい)なこともおろそかにしない。インプレー中はボールから目を切らない。走塁ではベースを走り抜ける。選手も当然、分かっているとは思うのですが、当たり前のことを当たり前にできるか。果たして、大観衆の前でやれるのかと言ったら、やはり難しい。そういった基本中の基本から徹底するようにしているんです」

 もう一つ、王子の持ち味となっているのがしぶとい戦いぶりだ。昨夏の都市対抗大会では1回戦でパナソニックと対戦。2点を追う9回裏二死から追いつき、延長タイブレークの10回は3点を失ったあとに4点を奪って逆転サヨナラ勝ち。勢いに乗ったチームはそのまま頂点まで駆け上がった。

「昔から王子はひたむきに粘り強く戦っていくのが身上。所属している東海地区は企業チームの強豪が多く、日程も過酷なので粘り強さがないと勝ち上がっていけない。だから、おのずと身についていった印象です」

新主将&新人に期待


 黒獅子旗を獲得できたもう一つの要因には、投手陣が挙げられる。そのカギは「大会通算で20イニングくらい投げられる投手が2人いること」だ。昨年は九谷瑠(現楽天)が4試合に登板し、23回を投げて3勝。防御率1.96の好成績で橋戸賞を受賞した。左腕・樋口新(愛知工大)は20イニングにわずかに届かなかったものの、こちらも4試合で19回を投げて防御率1.42。西部ガスとの2回戦では完封勝利を挙げた。投手陣全体では46イニングを投げたが、そのうちの42イニングをこの2投手でまかなっており、まさに指揮官の思惑どおりの展開だった。

樋口新


 今年は事情が異なる。九谷がプロ入りしたため、エースが抜けた穴をどうカバーするのかが大きなポイントとなる。前年優勝チームは補強選手も不在のため、自チームだけで対応しなければいけないが、その第一候補に名前が挙がったのが新人の右腕・水崎康平(九産大)だ。

 水崎はストレートも変化球もコントロール良くコースに決められるのが特長で「大学時代から『もう投げるのはやめなさい』と周囲から止められるくらい、よく練習をする選手で楽しみにしています」と湯浅監督。今シーズンは4月のJABA静岡大会で3試合に救援登板。日本製鉄かずさマジックとの予選リーグでは、3回無失点で公式戦初勝利。JABA京都大会からは先発を任されている。ただ、「水崎一人で穴埋めできればいいのですが、10イニングずつ2人の投手に分散させる方法もある」と柔軟に対処することとなりそうだ。

 今シーズンから山口乃義(立命大)が主将に就任し、新たにスタートを切った王子。湯浅監督は「前キャプテンの宝島史貴(愛知学院大)にサポートしてもらいながら、一生懸命にやってくれています。もともと若い選手が伸び伸びと力を発揮できるチームでしたが、まだ若い中堅の山口が主将になったことで、若手はより一層やりやすい環境になっていると感じています」と、チーム内が活性化していることを明かす。

今季から主将を務める山口は昨年の都市対抗でも一番・二塁で21年ぶりの都市対抗制覇に貢献


 今季のJABA大会は静岡、京都、九州大会に出場して、いずれも予選リーグ戦で敗退しているが「大会を通してチームを育てていかなければいけないのでバージョンアップを図るため、メンバーを固定せずに新戦力を起用し、既存の選手も新しいポジションを試してきました」とチャレンジを重ねてきた。その言葉のとおり、ルーキーは水崎のみならず、佐藤孝昭(中部学院大)は中堅のレギュラーポジションをつかもうとしており、高卒1年目の岡部飛雄馬(敦賀気比高)はJABA静岡大会のヤマハ戦で九番・遊撃に抜てき。5月のJABA九州大会ではJR九州との予選リーグで初安打を放つなど、3試合に途中出場して5打数2安打の数字を残した。

 同じく新人左腕・吉川陽大(仙台育英高)もJABA静岡大会でマウンドに上がり、公式戦でプレーする機会を与えられている。「経験がない新人選手も初めての東京ドームで普段どおりのプレーができるように、全員でチームの雰囲気をつくっていかなければいけない。われわれ、スタッフも含めて一人ひとりがキーになると思っています」。

予選免除の難しさ


大卒入社2年目の左腕・樋口[右]と強打の外野手・柴崎[左]が投打をけん引する


 投打の柱として期待されているのが、ともに2年目で昨年の優勝に大きく貢献した樋口と柴崎聖人(大経大)である。湯浅監督は期待を語る。

「樋口はバッターに向かっていきながら駆け引きができる。完投能力があり、ゲームをつくることができます。柴崎は攻守走の三拍子がそろった外野手。主力として、自分の成績がチームの成績を左右することを自覚して練習に取り組んでくれています」

柴崎聖人


 1回戦はJR北海道クラブと対戦することが決まった。「まずは初戦が大事。相手チームを研究し、開幕ゲームで自分たちの試合ができるように備えたいです」。前年優勝チームは予選が免除されており「予選の緊張感や苦しい試合を勝ち取る経験をしていないので、調整の難しさについては歴代の監督からアドバイスを頂戴しました。6月末には北関東へ遠征し、その後は強化練習を行ってからリカバリー。それから愛知県連盟会長杯では実戦でいろいろと試し、強化しながら調整をしています」と苦心している。さらに、本大会では開幕戦に登場することになる。

「開会式からインターバルを経てゲームをするのは難しいと思います。ですから、普段の練習から緊張感を持ち、試合当日をしっかりとイメージしながら本戦に臨みたいです」

 ディフェンディングチャンピオンの立場ではあるが「あくまでも挑戦者という意識に変わりはありません」と湯浅監督。今季のチームスローガンは「超挑戦」。チャレンジを続けたその先に、昨年を超えるほどの歓喜と2連覇が待っている。

昨年の都市対抗制覇は東京ドームに詰めかけた王子の関係者の心を一つにした。会社の一体感醸成のため、野球が力を与える


【Team Data】王子硬式野球部


●所在地/愛知県春日井市
●創部/1957(昭和32)年
●都市対抗実績/出場20回(2004、25年優勝)
●社会人日本選手権実績/出場16回

[STAFF]
●部長/森田仁
●副部長/鈴木賢一
●監督/湯浅貴博
●コーチ/加藤茂樹、亀山一平、近藤均
●コーチ兼アナライザー/青山祐也
●マネジャー/勝田直樹
●トレーナー/中原啓吾、白川雄大
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