機は熟した。昨年の都市対抗予選敗退後にチーム改革。「設計して勝つ」。新たな取り組みに着手すると、確かな成果が出た。2023年には初の8強と東京ドームで快進撃を見せたが、今大会は初の黒獅子旗奪取を目指す。 取材・文=佐々木亨 写真=榎本郁也 
東海地区は強豪チームぞろいで、都市対抗二次予選も超激戦区だ。東海理化は見事、第3代表で東京ドームへの出場を決めた[写真提供=東海理化硬式野球部]
確かなチームの方向性
激戦区・東海地区の第3代表として挑む東海理化の熱は高まっている。2年ぶり8回目となる東京ドームでの戦いを控え、主将の武藤健司(中部学院大)は目を輝かせる。
「早く試合をやりたい。その思いだけですね。以前までの僕だったら、不安要素を考えていたと思いますが、今はとにかくワクワクした感情しかありません」
今年で入社7年目。2024年から主将を担う武藤は、チームの浮き沈みを見てきた一人だ。12年ぶりに都市対抗本大会に出場した23年は、1970年の都市対抗初出場から53年越しに初勝利。勢いそのままに2回戦も勝ち上がって8強進出を果たした。翌24年は2年連続で本大会に出場するも、1回戦でENEOSに屈して涙をのんだ。昨年25年は、東海二次予選で敗退し、東京ドームにたどり着くことすらできなかった。日の目を見た瞬間。逆に悔しさしか残らなかったシーズン。その一つひとつの経験を主力選手としてかみしめてきた武藤はこうも言う。
「いまは、確かなチームの方向性と一体感があります。そこが他チームにはない売りであると思っています」
自分との向き合い方

就任5年目の山根監督は広島県出身。崇徳高、上武大を経てミキハウスに入社も休部を受けて、2005年に東海理化に移籍した。現役時代は捕手として活躍した
今年で就任5年目の山根直輝監督(上武大)は、チームの歩みにあった経験の積み重ねの重要性を説く。
「チームは段階を踏んできました。劇的に変わったのではなく、積み重ねがあっていまがある。これまでの経験がいまに生きていると思います」
山根監督が「いままでやってきたことに付け加えた形」と言うのが、昨年から野球部で取り入れている「Design Baseball」。昨年8月末に新たにチームスタッフとなった
松本隆宏チーム強化推進アドバイザーが示したものだ。チームが思い描く未来の姿から逆算して、戦い方や育成、そして組織づくりをデザインしていく考え方。理想とする姿(目標)を選手やスタッフといった全員で紡ぎ、そこに向かって突き進む。東海理化が挑む独創性に富んだ新たなスタイルである。山根監督は言う。
「今年は9月6日(都市対抗決勝日)が日本一になる日として、そこから逆算し『何をすべきか』を考え、1日1日を大切に取り組んできました」
「Design Baseball」の取り組みは、選手たちにとって「新鮮だった」と言うのは武藤だ。
「野球をデザインする概念がなかったので、初めて聞いたときは衝撃でした。ただ、意味を知って納得していく中で、準備をしたり、自分たちがやりたいことを設計していく大切さを実感してきました」
新たなスタイルとの出合いで、自身が大きく変化することも実感した武藤はこうも語る。
「自分自身に自信を持てるようになった。自分との向き合い方や日々の過ごし方、生活習慣を含めて良い方向に導いていただきました」
以前に比べて充実度は「まったく違う」と言う武藤は「若手はもっとそう感じていると思う」とも話す。
意識を変えた手帳

主将就任3年目の武藤は昨年「Design Baseball」と出合い、人生観が変わったという。日々「M'sノート」に書き込むことが力になる
チーム改革では、野球部のスタッフや選手それぞれが持つ「M'sノート」の導入もあった。使命・ビジョン(Mission)、心・在り方(Mind)、セルフマネジメント・時間管理(Management)を柱として、選手たちが日課として言葉を記すものである。「設計して勝つ」ことを東海理化のスタイルとして掲げ、そのスタイルを日々の中で体現していくために思考と行動をデザインする、いわば「設計図」であるその手帳は、選手たちの意識を大きく変えた。武藤は言う。
「書き残すことで、いろいろなものの振り返りがしやすいですし、目標の数値が明確に書かれているので分かりやすい。例えば、野手なら出塁率がこれだけ欲しいとか、ファーストスイングのコンタクト率はこれだけ求めるなど。また、打撃における二死からのアプローチの仕方なども明確に書かれているので、全員がそれらの数値に向かって、どう進んで行くかがはっきりとする」
14項目にわたる「M'sノート」には、『感謝日記』というものを書くページがあるのだが、そこでは会社や社員、地域の人々やチームメート、そして支えてくれる家族など、自身に関わる人々への感謝の言葉を毎日書き記す。山根監督は言う。
「日々の中にある感謝の思いを文字にする。言語化することは大切なことですよね。その感謝日記も含めたいろんな取り組みはチームを大きくしていくと思います」

M'sノート
「M'sノート」を通して試合の振り返りもする。月に3度は行われるというメンタリングミーティングもチーム強化につながっている。現状報告や、その時々にある課題やテーマについて選手間でディスカッションを繰り返す。若手、中堅、ベテランに関係なく、それぞれが思うことを明確な言葉で伝え合うことで、互いが学び、支え合う力を再認識して、ともに成長と進化につなげることができる。そんな関係性が東海理化のより良い空気感を作り出している。武藤はしみじみと言うのだ。
「さまざまな取り組みをする中で一番思うのは、チームが『家族』に近い存在になっているということ。兄と弟のような関係性も持ちながら、それぞれが言いたいことを面と向かって言える環境がある。チームの誰に聞いても『チームが、より好きになった』と言います」
大手自動車部品メーカーである東海理化の代表取締役社長である二之夕裕美氏が野球部の特別顧問を務めるなど、会社の大きなバックアップを受けてチームは進化を続ける。
再確認と意思統一

2026年のスローガンは「一 〜自分を信じろ仲間を信じろ〜」。チームにこの言葉が浸透してきている
今年の都市対抗東海二次予選では、第1代表決定トーナメント2回戦でトヨタ自動車に敗れて第3代表決定トーナメント(敗者復活戦)に回った。ただ、そこからが強かった。トヨタ自動車戦での反省材料をすべて出し合い、選手間での緊急ミーティングを行った。まさに、日ごろから行っているメンタリングミーティングである。徹底事項を再確認して、選手の意思統一を図り、チームの強さを取り戻していった。
第3代表決定トーナメント準決勝では、昨年の都市対抗でベスト4、社会人野球日本選手権では優勝を果たしたヤマハを逆転で下した。ジェイプロジェクトとの第3代表決定戦では、1点を追う9回裏、2点を奪いサヨナラ勝ちを収めた。東京ドーム行きを決めた予選後の7月に開催されたJABA愛知県野球連盟会長杯争奪野球大会では、都市対抗予選で敗れたトヨタ自動車を1点差で破って5大会ぶり2回目の優勝を飾った。都市対抗本大会に向けたチームの士気は、より一層高まっている。山根監督は言う。
「チーム力はついてきました。選手それぞれの意識の変化が一番の成長。自発的なミーティングや自主練習を率先して行う姿に成長を感じます。応援して支え続けてくれる方々に恩返しをするためにも、これからも野球部の存在意義を示して戦っていきたいと思います」
野球をデザインする。そこにあるイメージ、すなわち都市対抗優勝を目指す東海理化の東京ドームでの戦いが始まる。
【Team Data】東海理化硬式野球部
●所在地/愛知県豊川市
●創部/1959(昭和34)年
●都市対抗実績/出場7回
●社会人日本選手権実績/出場5回
[STAFF]
●特別顧問/二之夕裕美
●顧問/加田輝明
●部長/久能正人
●監督/山根直輝
●コーチ/川脇輝生、冨川平、剣山剛樹
●マネジャー/池田健太郎
●アナライザー/鶴岡厚史
[都市対抗東海二次予選結果]
●第1代表トーナメント1回戦 25[7]0 静岡硬式野球倶楽部
●同2回戦 2-5 トヨタ自動車
●第3代表トーナメント2回戦 17[7]0 岐阜硬式野球倶楽部
●同3回戦 7-3 ヤマハ
●同代表決定戦 5x-4 ジェイプロジェクト
※[]内数字は
コールド回数
【黒獅子旗奪取へ投打キーマン】高橋一壮[投手]&鈴木滉世[内野手]

高橋[左]は地元・愛知の愛産大三河高から東海学園大を経て入社、鈴木は学法石川高、上武大出身である
入社2年目の高橋一壮(東海学園大)は最速147キロの右腕。7月に行われたJABA愛知県野球連盟会長杯争奪野球大会では初戦と決勝で先発。7イニング制のゲームで、ともに4イニングを投げて無失点。MVPに輝いた。「Design Baseball」の影響は大きく「常にプラス思考で投げられている」と言う。都市対抗本大会を前に「勝てる投手になりたい」と東京ドームでの勝利を誓う。
4年目の鈴木滉世(上武大)は、188cmの大型野手。内外野をこなして、今年は都市対抗東海二次予選を含めてレギュラーとして躍動する。「1年目、2年目ともに都市対抗では守備と代走がメインでノーヒット。今年の東京ドームでは、常にマルチ安打を目標にしています。今年こそはヒットを打ちたい」と力強い。