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怪物が秘める2つの可能性

大谷翔平[投手&外野手/花巻東高]

 

与えられた投打の役割

 2つの“仕事”をまっとうするには、国際試合では勝手が違った。

 藤浪晋太郎と並ぶ先発2本柱、そして四番打者として期待された大谷翔平。7月26日の岩手大会決勝(対盛岡大付高)で敗退後もトレーニングを継続してきたとはいえ、投手とは繊細なポジションである。実戦から1カ月以上空き、感覚を戻すのには時間を要した。

 当初の初戦だった8月31日のチェコ戦が雨天中止。カナダとの予選第1ラウンドで“開幕投手”を任されたが、4回途中3失点降板。プレート下部分が土ではなく、ゴムという環境の違いにも見舞われ、5四死球と制球を乱した。想定外の展開に、チームはタイブレークの末に5対6で敗退。このつまずきが、高校日本代表を精神的に追い込む形に――。

 チームを率いた小倉全由監督にとっても大誤算だった。国内直前合宿では濱田達郎が左肩違和感を訴え、結果的に“BIG3”のうち、2人を欠いた先発陣。つまり、コロンビア戦からアメリカ戦まで、3連投しなければならない藤浪晋太郎への負担が自然と大きくなったのだ。

 マウンドに立たなくとも、大谷には「四番・DH」の役割があった。しかし、台湾、パナマとの2試合では10打数5安打も、イタリア戦では5打数無安打、コロンビア戦も1安打。「DHだとゲームに入っていくのが難しい。投手にもベンチからしか声がかけられない。僕が助けられるのは、バッターボックスしかない。藤浪君は悪いなりにもよく抑えていた。さすが甲子園優勝投手だけのことはあります。世界一の目標のために、投げる機会があれば抑えたい」

 試合中は打者として集中するため、ゲーム後の限られた時間内でキャッチボール調整。来る日に備え、懸命なフォーム修正に取り組んだ。

 日本は勝てば1―2位決定戦、負ければ5―6位決定戦と、天下分け目の大一番となったアメリカ戦で惜敗。前日の韓国戦から左翼手に就いた大谷の登板もなく、初優勝の可能性が消滅した。四番・大谷は2試合で8打数1安打1打点。外国人特有の変則フォームと、タテ変化に崩された。「これまで生きてきた18年間で経験したことのない投手ばかりで、戸惑いがあった。木製バットでも、自分ではとらえたつもりのスイングでも、うまくいかない。(手元で)ボールが落ちていたのかもしれません」

 さらに、苦悩も口にしている。「投手もやりながら、まずは四番の仕事もしたかったが、得点につなげる打撃ができなかった」

 ナイトゲームのアメリカ戦翌日は、朝10時からの韓国戦。8月31日からの9連戦ラストマッチで、大谷は8日ぶりの先発を任される。7回2失点で敗戦投手も、最速155キロにスライダーのキレも抜群。90キロ台のカーブとの緩急も織り交ぜて、12奪三振。四死球4ながら、軸足にタメを作る新フォームで進化を見せた。「(高校日本代表としての)2週間の集大成。しっかりとしたボールを投げようと。最後まであきらめずに、悔いなく終われました」

 打撃面でも変化球にうまく対応し、鮮やかな中前打。1球で仕留めるミスショットさえ克服できれば、非凡なバットコントロールもより生きる。

“怪物”が秘める2つの可能性

今夏高校生史上最速の160キロをマークした花巻東高・大谷翔平。甲子園出場は逃したものの、ヤングジャパンの一員として、8月30日から韓国で開催されたIBAF18U世界選手権を戦った。同チームで与えられた、「投手」、「四番」という2つの役割。悲願の金メダルには届かなかったが、自身が持つポテンシャルを、投打において十二分に発揮してみせた。日本か、メジャーか――。投手か、野手か――。今後、本格化していく“怪物右腕”の動向に注目だ。



 悩める韓国遠征を過ごしたのとは対照的に、スカウトの評価は不変だ。今大会期間中、メジャー8球団をはじめNPBも5球団9人が視察した。DeNA・高田繁GMは言う。「実力どおりの投球を見せてくれた。藤浪君と2人は抜けている。投手と打者、どちらにも魅力がある」

 北海道日本ハム・山田正雄GMは、二刀流の夢物語をこう描いている。「球速と遠くへ飛ばすのは天性です。打者で言えば、高橋由伸(巨人)タイプ。ただ、本人は投手をやりたいと言っているようなので、まずは投手として評価しています。腕の振りが柔らかいですし、変化球の精度も良い。素晴らしい潜在能力です」

 大谷は投手の話題を振ったときの方が、目を輝かせる傾向にある。今後の“二刀流”について展望した。「(卒業後にプレーする)人の意見も聞きながら決めたいですが、投手の気持ちも捨てずにやりたい」

 大谷の進路先を巡っては、09年の花巻東高の先輩・菊池雄星(現埼玉西武)と同様に、日米争奪戦の様相を呈している。大谷は以前から強いメジャー志向を持っているが、現実とは別問題。9月9日の帰国後から“大谷ドラフト”が本格化している。「国際試合を経験して、ある程度、世界のレベルを把握したつもり。進路についても、考える材料になります。監督、両親の意見も聞きますが、最終的には自分で決めたいです」

 3年前。菊池はプロ志望届提出後、NPB12球団、メジャー8球団との面談を経て“日本残留”を明言。仮にメジャーを志望したとしても、10月25日のドラフト会議で指名があれば、当該球団は3月31日まで交渉権を保有する。2つの可能性を秘める、大谷の決断から目が離せない。

▲実戦登板から1カ月近く遠ざかり迎えた今大会。決して本調子ではなかったが、韓国との5―6位決定戦では最速155キロをマークした


▲今年のドラフト戦線の中心となることは間違いない大谷[写真右]と藤浪[同左]。大会中には互いのピッチングについて助言し合ったという



PERSONAL DATA
おおたに・しょうへい●岩手県出身。姉体小2年時に水沢リトルで野球を始め、6年時はエースで主将。水沢南中時代は一関シニアに在籍し、岩手県選抜として全国大会出場。花巻東高では1年春からベンチ入りし、同秋からエース。2年夏、3年春と甲子園に出場し、3年夏の岩手県大会準決勝(対一関学院高)では高校生史上最速となる160キロをマークした。

選手のタイプ ダルビッシュ有(レンジャーズ)
193cm85kg/右投左打/
1994.7.5生
◎新チーム結成以降の成績
11秋岩手大会 優勝
11秋東北大会 4強
12センバツ 1回戦
12春岩手大会 3位
12春東北大会 8強
【12夏岩手大会】
2回戦 12-0 宮古水産
3回戦 9-1 水沢工
4回戦 10-0 伊保内
準々決勝 3-0 盛岡四
準決勝 9-1 一関学院
決勝 3-5 盛岡大付
【甲子園通算成績】
試2 勝0 負2 回14 1/3 責6 防3.77
【日本代表】
12 18U世界選手権
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