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[大学生CLOSE UP]ブレーク寸前の“金の卵”たち

梅野隆太郎[捕手・福岡大]、三木亮[内野手・上武大]、高梨裕稔[投手・山梨学院大]

 

確立したニュースタイル
梅野隆太郎[捕手/福岡大]
取材・文=岡本明祐
写真=松村真行



 魅せる打撃が確立されている。全打席、体がはち切れんばかりのフルスイング。インパクト後のフォロースルーも大きいから、その反動でバットが飛んでいく。

       ◎

 2大会ぶり17度目の優勝を決めた日米大学選手権第5戦。四番・梅野隆太郎のルーティンが思わぬ“騒動”となってしまった。2点リードの5回裏、大きく弧を描いた打球は左翼席へ吸い込まれた(写真)。もちろん故意ではない。お馴染みのポーズに黙っていなかったのが、三塁ベンチ前にバットが転がってきたアメリカ。シュロスネーグル監督は拾い上げると、日本ベンチへ投げつけた。明らかなマナー違反だ。

 伏線があった。4回裏に岡大海(明大4年・倉敷商)が死球で激高。それまでも頭部付近に投げてきた経緯があり、我慢の限界を超えてしまったのだ。両軍ベンチから選手、スタッフが飛び出してあわや乱闘の騒ぎに。不穏な空気が漂う中で飛び出した梅野の本塁打だったわけだ。「意識はなかった。いつもの流れでそうしたんですが(苦笑)」。結果的にアメリカの戦意を喪失させる一発となった。今大会は四番・DHで5試合フル出場し、20打数6安打4打点。第1、3戦では先制打を放つなど、勢いをもたらす一打が多かった。「一本が欲しい場面で、四番の仕事ができて良かったです」

 本職は捕手だが今大会はチーム事情により5試合、本塁を死守したのは嶺井博希(亜大4年・沖縄尚学)。善波達也監督(明大監督)は梅野へ対し、主将に加えて四番・DHを託す。2年前の日米大学選手権ではマスクをかぶったプライドもあるが、自身の思いは押し殺した。「監督から与えられた役割を果たすことに、必死でした。ベンチでも守っている気持ちで、支えていこうと。だからDHでもリズム良く、打席に入ることができました」

 守らなくても「捕手として良い経験ができたと思う」と大会後に収穫を語ったのだから、恐れ入る。

追加招集となった2年時の代表候補合宿が転機

 福岡工大城東高時代は高校通算25本塁打。同じ福岡で高卒でプロ入りした東筑紫学園高・小関翔太(現楽天)、九州国際大付高・河野元貴(現巨人)と並ぶ「攻撃型捕手」として注目を浴びた。だがプロ志望届は提出せず、4年後を目指した。「行きたい気持ちはありましたが、仮に指名があったとしても下位となると……。大学で結果を残してからでも遅くない、と」

 関東の強豪校からの勧誘を断り、地元・福岡に残った。「九州の大学でも、スカウトは見てくれている」と信じた福岡大では、1年春の大学選手権1回戦(対東日本国際大)で3安打3打点。鮮烈な全国デビューを飾っている。

 2年春の大学選手権で東洋大・藤岡貴裕(現ロッテ)から適時打を含む2安打。夢の扉が開かれた。「大学日本代表候補選考候補合宿(平塚)では追加招集組から入っていき、一つひとつの段階を踏んで、今があると思っています」

 捕手として覚醒したのは2年前の日米大学選手権。11年ドラフトで「大学生BIG3」として騒がれた東海大・菅野智之(現巨人)、明大・野村祐輔(現広島)、東洋大・藤岡とバッテリーを組んだことが、財産となっている。

 目標の選手に巨人・阿部慎之助を挙げる。左右こそ違うが、背番号10の打棒にあこがれを抱く。「自分はガムシャラ的な打撃スタイルですが、阿部さんのような器用さを磨きたいと思う」

 スカウトを魅了するフルスイングだけで、梅野を説明することはできない。二塁送球が1.9秒台の強肩と卓越したインサイドワークに加えて、50メートル6秒台前半のスピードもある。「今までの捕手とは違う、機敏な動きを見てもらいたい」。カバーリングや走塁にもこだわりを見せる、新たなスタイルを確立していく。

PERSONAL DATA
うめの・りゅうたろう
173cm75kg/右投右打/1991.6.17生
経歴→福岡・福岡工大城東高
選手のタイプ→城島健司(元福岡ダイエーほか)
[主な実績]
【高校】
09夏福岡大会準々決勝(2-4筑陽学園高)
【大学】
タイトル:12秋優秀選手賞、13春最優秀選手賞、ベストナイン6回(10秋、11春・秋、12春・秋、13春)

▲福岡大では1年秋から正捕手。今春まで6季連続ベストナインと「打てるキャッチャー」としての存在価値を高めている[写真=中島奈津子]



PROFILE
福岡県出身。片縄小2年時に片縄ビクトリーで軟式野球を始め、那珂川北中では那珂川シャークスで四番捕手。福岡工大城東高では1年秋からレギュラー。3年春の県大会準優勝、九州大会1回戦。3年夏は8強。福岡大では1年春からDHでレギュラーで、同秋からは捕手に定着。2年時に日米大学選手権で日本代表入りし、今年の同大会では主将・DHとして17度目の優勝に貢献。福岡六大学リーグ通算69試合、打率.336、5本塁打、33打点。

     ◆

玄人好みの職人肌
三木亮[内野手/上武大]
取材・文=岡本朋祐
写真=田中慎一郎



 武大と大学日本代表を通じて、背番号1を着けた三木亮は「1」を頭に入れてプレーする。「何をやるにしても1球目、1歩目を大事にしないことには、後に続かない。要するに根拠と準備が大切だということです」

 対応力。野球人・三木を語る上で外せないキーワードだ。出場12度目にして上武大を初の日本一に導いた大学選手権が、プロの評価を決定的にする舞台となった。福井工大との1回戦、福岡工大との2回戦では、ともに先制打。大雨の悪条件下で強行された天理大との準々決勝では、大会通算700号が人生初の満塁弾。遊撃守備でも相手が5失策と浮き足立つ中でも、三木は4度の守備機会を無難にこなしている。堅実プレーに着目していたのがオリックス古屋英夫編成部国内グループ長だ。

「雨の人工芝で、球足が変わることも想定して守っていた。スローイングもきっちりしている。打撃面もつなぎに加えて、一発も秘めており面白い存在です」

 勢いは止まらない。明大との準決勝では追撃の適時打に決勝打。亜大との決勝こそ唯一の無安打だったものの、タダで終わらないのが三木の真骨頂だ。3点を追う6回表、先頭打者として出塁。大逆転の足掛かりとなる四球に「小さいながらも貢献できた」と、名わき役は胸を張った。

 侍ジャパンのユニフォームに袖を通した日米大学選手権でも、いぶし銀のプレーは際立っていた。遊撃手で4試合に先発出場。手足が長く、手元で変化するムービングボールにも冷静に対処していた。「背丈があるから、左肩が上がってしまう。水平にして、よりコンパクトに振り抜く」。好きな選手は3月のWBCで、日本の窮地を何度も救った中日井端弘和。場面に応じた右打ちや自己犠牲こそが三木の売りだ。上武大ではクリーンアップを任されているが、大学日本代表では二番を任されたように、玄人好みの職人肌を目指す覚悟でいる。

 多くの挫折が三木を大きくさせた。中学時代はPL学園高、大阪桐蔭高への入学を希望していたが夢破れる。一念発起して野球留学した遊学館高では北信越屈指の内野手に成長。プロ志望届を提出するが、指名漏れの屈辱を味わう。そして昨秋の白鴎大戦では二盗の際に右足首骨折。10月末に手術を受け、約3カ月間のリハビリを経て復帰。下半身が使えない中、イスに座ってのティー打撃で左手の使い方を覚えた。鉄壁の守備に加え、ケガの光明による打撃開眼で4年越しのプロが視界に入っている。

PERSONAL DATA
みき・りょう
174cm76kg/右投右打/1991.10.25生
経歴→石川・遊学館高
選手のタイプ→井端弘和(中日)
[主な実績]
【高校】
09夏石川大会準々決勝
(1-2日本航空石川高)
【大学】
タイトル:11秋首位打者、12春最多打点、
ベストナイン3回(11秋、12春、13春)

PROFILE
大阪府出身。東羽衣小2年時から高石南スターズで遊撃手兼投手として野球を始め、高石中では高石ボーイズに在籍。遊学館高では1年秋から遊撃レギュラー。2年春の北信越大会優勝が最高成績で同夏の県大会準優勝、3年夏は県大会準々決勝敗退。高校通算34本塁打。上武大では1年春からレギュラー。今年6月の大学選手権では1本塁打8打点で日本一に貢献。日米大学選手権は4試合に先発し、13打数4安打、2打点。関甲新学生リーグ通算75試合、打率.313、7本塁打、56打点。

     ◆

無名から全国区へ脱皮
高梨裕稔[投手/山梨学院大]
取材・文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎



 24人の大学ジャパンからは惜しくも落選したが、高梨裕稔は間違いなく「次点」の一人であった。6月21日から3日間、神奈川・平塚球場で行われた日本代表選考合宿。高梨は初日の紅白戦で2イニングを打者6人、一人の走者も許さなかった。大学ジャパンで四番を務めた福岡大・梅野隆太郎から三球三振の猛アピールも「当確」とはいかない厳しい世界。全国区での実績が皆無の右腕にとって、さらなる結果が必要だった。当落線上の10人が1回ずつ登板した最終日の“追試”(無死一塁から)では1失点。無念の選考漏れも、収穫の多い3日間だった。

「ドラフト候補と言われる大瀬良(大地、九州共立大)、九里(亜、亜大)、杉浦(稔大、国学院大)、岩貞(祐太、横浜商大)と接する中で、自分の投球ができれば、通用する手応えを得ました」

 自己評価だけではない。NPB 12球団のスカウトが見守る中での好投は、人生を変える3日間となったかもしれない。千葉ロッテ・永野吉成チーフスカウトは、将来性と素材の良さを絶賛する。「サイズ(187センチ)に恵まれていて、フォークという特長のある投手ですから、どのチームも注目していると思います」

 最速は今春に計測した147キロ。真っすぐ中心の配球で押していき、カーブとフォークのコンビネーションで抑えるのが持ち味。「体が横ぶりになるので」と、大学2年以降はスライダーを投げない。埼玉西武岸孝之が理想の投手像だ。

 高校1年夏までは三塁手。同秋に投手転向し、2年弱で122キロの直球は20キロアップ。無名の原石だった高梨を発掘したのは山梨学院大・伊藤彰コーチ(元ヤクルト投手)だ。千葉大会で他の選手を視察した際の相手が、土気高のエースであったのだ。2009年から山梨学院大を率いる監督は、巨人V9時代の主力投手として活躍し、通算167勝の高橋一三氏である。「監督にはフォーム全般を見てもらい、コーチからは投球以外の周辺部分。基礎からみっちり鍛えた成果が出ていると思う」

 関甲新学生野球連盟に属する山梨学院大(創部1982年)は優勝経験がない。同一リーグの上武大が、今年6月の大学選手権で連盟初の日本一。今春まで4季連続2位の高梨は4年秋、頂点だけを見据える。「チームの勝利に貢献した中で、可能性があるならば、プロ志望届を出したい。現状に満足せず、上を目指していきたいです」

 元プロによる二人三脚の指導で本物の技術を習得した「高梨」の名は、秋のドラフトで全国区に躍り出る。

PERSONAL DATA
たかなし・ひろとし
187cm82kg/右投右打/1991.6.5生
経歴→千葉・土気高
選手のタイプ→岸孝之(埼玉西武)
[主な実績]
【高校】
09春千葉大会第1ブロック代表決定戦(0-11幕張総合)
09夏埼玉大会3回戦(0-5木更津総合高)
【大学】
タイトル:最多勝2回(11秋、12秋)、ベストナイン2回(11秋、12秋)

PROFILE
千葉県出身。萩原小2年時にグリーンフォックスジュニアーズで三塁手として野球を始め、土気高では1年夏に投手に転向し、同秋に背番号14でベンチ入りし、2年秋からエース。
3年夏は県大会3回戦敗退。山梨学院大では1年春から登板し、今春まで4季連続2位。2、3年秋とベストナイン。
最速147キロ。変化球はカーブ、フォーク。
関甲新学生リーグ通算41試合、21勝13敗、防御率2.31。
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