週刊ベースボールONLINE

「プロ・アマ結束」のキーマン

小島啓民[トップチーム打撃コーチ/アマチュア代表監督]

 

プロ・ア混合チームで第一歩を踏み出した小久保ジャパン。その参謀として活躍したのが、打撃コーチを務めた小島啓民アマチュア代表監督だ。幾度となく世界を経験したその経歴と、侍ジャパンで期待される役割とは。
文=横尾弘一 写真=高原由佳

 諫早高1年夏に甲子園の土を踏んだ小島啓民の野球人生は、早大を経て入社した三菱重工長崎で世界とつながる。27歳のときに1991年の都市対抗で準優勝に貢献すると、山中正竹監督が率いる日本代表に選ばれ、バルセロナ五輪アジア予選を戦った。「オリンピックの正式競技に採用され、何としても出場キップを勝ち取らなければならなかった。重圧は半端なものではありませんでした」

 そして、首尾よく優勝して出場権を得ると、小島は山中監督にこう言ったという。「素晴らしい経験をさせていただき、ありがとうございました。本番では金メダルを目指すために、僕のような選手は外してください」

 キューバやアメリカを倒すためには、プロ入りするような若く高い潜在能力を備えた選手でチーム編成をするべきだと小島は考えていたのだ。しかし、山中監督は「いや、おまえは必要だから外さない」ときっぱり言った。このときから、小島は“世界で勝つためには”という壮大なテーマと向き合っていくことになる。「自分のような選手がなぜ必要だったのか。また、世界で勝つためにはどういう野球をすればいいのか。バルセロナでは銅メダルでしたが、山中監督の意志をしっかりと受け継ぎ、世界一を追求しようと思いました」

 三菱重工長崎で監督を務めたあと、99年から1年間は日本オリンピック委員会の在外研修員として渡米。メジャーのパドレス1Aや複数の大学で指導にあたり、日米の育成法や野球観などの違いを学ぶ。その経験を生かして2006年に日本代表コーチに就くと、10年のアジア競技大会からは監督を務め、昨年のアジア野球選手権大会、去る10月に行われた東アジア競技大会に優勝した。

 アジアを連覇した手腕と経験を買われ、バルセロナでともに戦った小久保裕紀監督から打撃コーチ就任を要請された。「今回のチャイニーズ・タイペイ代表に関しては、呂明賜監督の戦術も選手たちの能力も把握している。そうしたデータ面をほかのコーチにも伝えられればと思います」

 そして、社会人の高木伴投手(NTT東日本)と岡崎啓介内野手(日立製作所)を小久保監督に推薦した。「来年に開催されるアジア競技大会の有力な候補。短い期間でもプロ選手と過ごすことで、スキルアップにつなげてもらえれば」

 第1戦では、小久保監督をはじめ初代表の選手やコーチが緊張感で表情を硬くする中、場数を踏んでいる冷静さが印象に残った。「相手投手の情報を各打者に伝えましたが、私もプロの技術や対応力に多くのヒントを得られた。実に有意義な3試合だったと思います」

 12月2日から実施される社会人と大学生の日本代表候補強化合宿でも、今回の経験が生かされるだろう。

▲今大会でもプロのコーチ、選手らと積極的に意見交換する場面が目立った。世界一奪還のために、その手腕は欠かせない



PROFILE

こじま・ひろたみ●長崎・諫早高、早大を経て社会人の三菱重工長崎で外野手としてプレー。92年バルセロナ五輪に小久保監督とともに出場。00年まで三菱重工長崎の監督を務め、以降はアマトップチームのコーチ、監督を歴任。10年の第16回アジア大会では監督として3位。今年10月の東アジア大会では監督として日本を優勝に導いた。
特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング