今シーズン、バレンティンが達成した60本塁打の新記録の更新について、今季は昨季より飛ぶボールが使用されたからとの流言が飛んだ。果たしてその真実はどうか、数字で検証してみる。 バレンティンは、来日1年目の11年に31本塁打を放ち、セ・リーグの本塁打王に輝いた。12年も同じ31本で2年連続本塁打王のタイトルを獲得した。今シーズンは左足の負傷で開幕に出遅れたが、16試合目の4月16日に第1、2号を連発すると、その後はほぼ2試合に1本という驚異的なペースで本塁打を放ち、56本の新記録を達成後は、シーズン終了までに記録を60本塁打に伸ばした。これは過去2年間のほぼ倍の数字である。
今シーズンはなぜこれほど本塁打数が伸びたのか。今季からプロ野球で使われている統一球の反発力が上がり、「飛ぶボール」になったためとの意見があるが、それが理由だろうか。
セ・リーグの過去3年間の本塁打ランキングを見ると、今季2位のブランコ(
DeNA)は、11年は10位で16本、12年は24本、13年は41本と、確実に伸び率が上がっている。3位の
阿部慎之助(
巨人)も、11年20本、12年27本、13年32本で、年を追って数字を上げている。詳細を見ると、阿部は11年が390打数、12年が467打数、13年が422打数。これで本塁打率を出すと、11年が.051、12年が.058、13年が.076となる。明らかにボールの反発係数が変わったことが、本塁打数増に影響したと考えられる。
パ・リーグの記録も見てみよう。本数はとしては低調で、トップのアブレイユ(
日本ハム)も11年の
中村剛也(
西武)の48本を下回る31本しか打てなかった。しかし、2位の
中田翔(日本ハム)は、過去2年より100打数以上も少ない中で、自己最多の28本を放っており、技術的、体力的な成長を考慮に入れても飛ぶボールの寄与は大きかったと考えられる。
それでも、バレンティンにはボール以外のところにも、ホームランの数を伸ばす要素があったと考えられる。ブランコとの今シーズンの月別本塁打の推移を見ると、開幕から飛ばし、5月末で21本塁打を放ったブランコに対し、開幕に出遅れたバレンティンは7本少ない14本だった。ところが8月に月間本塁打の新記録となる18本を放つなど、爆発的に記録を伸ばす一方で、5月と9月に9試合本塁打の出ない試合が続いた以外は、安定して数字を積み重ねた。2位のブランコに19本差をつけていることからも、バレンティンの60本塁打を「ボールが飛んだから」だけで片づけるのは筋違いだ。
来日3年目、「本能で対応していた」1年目から、2年目には「捕手の配球を考える」ようになり、「その集大成として3年目があった」という本人のコメントもあった。事実、打率の伸びが成長を証明している。シーズン最多本塁打記録を更新できたのは、日本野球への順応と本人の能力が合致した結果だったのではないだろうか。