幾年かのプロ経験を経て今季、球界トップクラスの仲間入りを果たした4選手。彼らはなぜ、飛躍を遂げたのか。その実像に迫る。 
練習によって培われた技術を本番でフルパワーを出し表現するのが柳田の魅力だ(写真=湯浅芳昭)
「過小評価」する男
シーズン開幕前、だれがこれほどの活躍を予想しただろうか。それほどまでに「ギータ」の愛称はホークスファンを飛び越え、全国区となった。打率.317、15本塁打、70打点、33盗塁、シーズン166安打。プロ4年目の
柳田悠岐が残した成績はすべて、自己最高だった。「自分、そこまですごい選手じゃないっすよ。みんな、自分のことを高く評価し過ぎですって」
謙虚なのか、自己評価に厳しいのか。柳田は自分を客観的に見たとき、必ずと言っていいほど「過小評価」する。だが、そんな一面が柳田という選手をさらなる高みへと導いているのかもしれない。才能あふれる選手の一人と見られがちだが、とにかくよく練習する。特に自慢の打撃練習に関しては手を抜くことがない。
フリー打撃前に行うティー打撃を見ていれば、納得がいく。通常はボールをしっかりコンタクトすることに重きを置き、軽めのスイングから打ち出す選手が多いが、柳田はファーストスイングからフルスイングで白球を打ち返す。「試合中、打席で軽く振ることってないじゃないですか。だから、ティー打撃も最初のスイングを大事にしているんです。フルスイングすることで、自分のそのときの状態っていうのも確認できますからね」
たかが1スイング、されど1スイング――。その地道な積み重ねで「振る力」を身につけ、日本人離れした「飛距離」を手に入れた。
常に全力スイング。それが柳田の代名詞でもある。その姿は日本の枠を飛び越え、現役メジャー・リーガーたちの目にも留まった。シーズン後に行われた日米野球では一発こそ出なかったものの、フェンス直撃打を2本放つなど快音を響かせ、シリーズMVPにも輝いた。全米チームを指揮したファレル監督(レッドソックス)からも印象に残った選手として挙げられた。大ブレークした1年を、最高の形で締めくくった。
来季からは背番号も一新。侍ジャパンの
小久保裕紀監督が現役時代に着用し、2シーズン空番となっていた「9」を背負うことが決まった。「プロ入り時からいつかは1ケタの番号を背負いたいと思っていた。まさかそれが尊敬する小久保さんの番号ということで、本当にうれしく、身の引き締まる思いです。まだまだ実力不足ですが、ふさわしい選手になれるように頑張ります」
目標に掲げるトリプルスリー達成へ、来季は勝負の年となる。

今季、自らの殻を破って、チームの牽引車となった菊池(右)、丸(写真=松村真行、前島進)
競争+相乗効果
今季、
広島の“キクマルコンビ”がグラウンドを駆け回った。攻撃では打線をけん引し、守備ではセンターラインを担った、
菊池涼介と
丸佳浩。同学年の2人は快進撃を見せた14年カープの中軸として活躍し、侍ジャパンの一員として日米野球に出場した。球界を代表する選手となった今もなお2人は選手として成長段階にある。
菊池は、驚異的な運動能力により可能にした広範囲の守備力で投手陣を何度も助けてきた。課題とされた打撃も「ラクに構えて、振るときにだけ力を入れる。守備のように打撃でもシンプルに考えることができるようになった」ことで劇的な変化を遂げた。打率は13年の.247から一気に.325まで上昇。43犠打を記録しながら最多安打の
山田哲人(
ヤクルト)に迫る188安打を放った。
丸は、13年に就任した
新井宏昌打撃コーチとともに打撃改造に取り組み、マンツーマン指導を受けて新打撃を習得した。打撃3部門でチームトップの成績を残し、14年はさらに確実性が向上。打率は初めて3割を超え、さらに100四球を選んで出塁率は4割を超えた。
2人の成長速度を上げたのは、互いの存在にある。試合中にベンチやネクストサークルで相手投手の球筋やクセについて意見交換するのは常。互いの打席で感じたことも素直に気兼ねなく言い合える仲。同じ立場の選手からの客観的な意見は貴重だった。そしてチームをけん引する責務と重圧を分けあえたのも大きかった。
今季の広島は良くも悪くも、キクマル次第。彼らの結果がチームの勝敗を大きく左右した。急成長しているとはいえ、まだ若手の立場だ。常勝球団であればチームの柱となるベテラン選手に支えられながらのびのびプレーできたかもしれないが、広島はケガや不調のベテラン選手が多く、急速に世代交代が進んだことで菊池と丸が柱とならなければいけなかった。
それでも、「100%以上の力は出せない。とにかく2人のどちらかが塁に出て、四番につなごうと考えている」と菊池が言えば、丸も「やっぱり僕らが出ないと得点にならない。どんな形でも塁に出ることを意識している」と呼応する。チーム内で立場が変わっても、超がつくほどのポジティブ思考の2人は変わらなかった。競い合うだけでない相乗効果によって、キクマルコンビはさらに進化を続けていく。

来季は真のエースとなるため、慢心することなく、さらなる飛躍を誓う(写真=高塩 隆)
“神様”からの金言
あの日の出会いが
井納翔一を変えたかもしれない。2月の沖縄・宜野湾キャンプ。ブルペンで投球練習を終えると、大きな影が近づいてきた。「いいフォークを投げたいのなら、カーブの練習をしなさい」
ズシリと重みのある言葉。“フォークの神様”と呼ばれた
杉下茂氏(元
中日ほか)が、わざわざ歩み寄ってくれた。「自分にとって、すごく大きかったですね。杉下さんには、本当に感謝しています……」
カーブを練習することで、手首を柔らかく使うコツを習得。手首が柔らかく使えれば、直球の精度も向上するという理屈だった。「ストレートが良ければ、フォークは自然と落ちる」。杉下氏の持論を真剣に聞き「まったく気づかないことでした」と感激。ブレークする確かなきっかけを与えてくれた。
スライダー、フォークが軸だったプロ1年目から「試合で使えるレベルになった」と実感したカーブをミックス。緩急をつけられ、直球、フォークのキレも明らかに増した。同期入団の
三嶋一輝に開幕投手は譲ったが、開幕2戦目・3月29日のヤクルト戦(神宮)に抜てき。6回3失点で初白星を挙げると、快調に勝ち星を積み上げていった。
井納が持つ「聞く耳」。これも宜野湾キャンプでのことだ。杉下氏と同様に視察した侍ジャパン・小久保裕紀監督との会話。「このチームはお前がキーマンやな」と背中を押された。「(キーマン�
蓮忙暗茲世隼廚辰討い燭里如帖帖�咾辰�蠅靴燭掘△泙紳緝修冒�个譴襪燭瓩砲癲�萃イ蕕覆④磴い韻覆い隼廚い泙靴拭�
25試合で11勝9敗、防御率4.01。有言実行で、日米野球でも代表メンバーとして立派に戦った。
もちろん、苦労や挫折もあった。セ・リーグで10勝一番乗りを果たし、少しばかりテングになっていた8月8日のヤクルト戦(横浜)。今季ワーストとなる2回2/3、7失点でKOされたマウンドで、周囲の怒りを買った。2番手・
田中健二朗が来る前に足早にベンチへ戻り、不遜に映る態度を
中畑清監督、
高田繁GMから叱責された。「どんなことがあっても出してはいけない態度。今思うと、すごく情けないです……」
この試合で実に3度、涙を流した右腕。精神面でも学習した。
8月以降は9試合で1勝4敗と失速。「まだまだやれた、という思いが強いですね」と反省できるのも、慢心がない証拠だ。エース「格」からエースの称号を奪う3年目。謙虚と感謝の言葉を忘れず、背番号15は絶対的な存在へ飛躍する。