新たに背番号「9」を背負い、新シーズンをスタートさせる。「トリプルスリー」の目標も、この男にかかれば、それほど難しいものではないように見えるから不思議だ。連続日本一に向けて、攻守走にチームの力になりたいとキャンプで連日汗にまみれる若鷹に話を聞いた。 取材・構成=菊池仁志 写真=湯浅芳昭 僕が着けていいのか、問題
2014年12月1日、
ソフトバンクから
柳田悠岐の背番号を「44」から「9」に変更すると発表された。前代の「9」はホークスを四番として、チームリーダーとして牽引してきた
小久保裕紀氏(侍ジャパントップチーム監督)だ。責任ある番号を着けるにあたっての正直な胸の内とは?

今シーズンから憧れだった1ケタの背番号を着ける
──今季、背番号が「9」に変更されます。
柳田 球団から「どうや」みたいな感じで言っていただいて、考えて決めました。悩みましたけどね。
──悩むポイントとなったのは?
柳田 やっぱり小久保(裕紀)さんが着けられていた番号なんで。偉大な選手が着けていた番号を僕が着けていいのか、という問題です。
──問題はクリアできたのでしょうか。
柳田 その問題もあったんですが、僕、正直、プロに入ってからずっと1ケタの番号を着けたいっていう思いで野球をやっていたんで、その気持ちの方が、小久保さんの番号を俺なんかが着けていいんかっていう気持ちよりも上回ったんですね。そういうことです。
──小久保さんとはどのような話をされましたか。
柳田 「着けてもよろしいでしょうか」と話はしましたよ。小久保さんからは「頑張れ」というふうに言っていただいたんで、それで球団に「9番を着けさせていただきます」と返事しました。
──着け心地はいかがですか。
柳田 いやーどうですかね。だいぶ慣れてきましたけど、まだシーズンが始まっていないんで、この番号をしっかりファンに覚えてもらえるようにやっていくしかないと思っています。
──「9」を柳田選手の番号だと定着させる意気込みですね。
柳田 そんな簡単に小久保さんのイメージは変わらないと思いますので、僕は自分のことを一生懸命やっていくだけだと思っています。まずはケガなく、ずっと一軍のグラウンドに立っていることが覚えてもらうためには必要だと思うんで、ハイ。─昨年は144試合にスタメン出場しましたが、1試合だけ、途中交代がありました。
柳田 そのときは打てなかったですし、それはしゃあないと思っていますけど。
──フル出場への意気込みは?
柳田 もちろん、出たいとは思います。ただそこは監督さんが決めることなので、自分のやることをしっかりやるだけだと思っています。その中で、フルで出られれば一番良いですよね。ピタッと止まってゆっくり下ろす「強い打球を打てば、それだけヒットになる確率が上がる」という信念に基づくフルスイング。それはただやみくもにバットを振り回すだけではなく、高度な技術の結晶でもある。ポイントは同じ形でそのスイングを貫けるか否か。ただ昨季は試合に出続ける中で、継続することの難しさを痛感した。導き出した答えは下半身強化。頑強な土台が安定を生む。
──自主トレでは下半身強化に重きを置いたそうですね。
柳田 しっかり走り込んできました。下半身の筋力の測定もしたんですが、筋量もメッチャ増えていたんです。今は結構、バッティングでも下がしっかり使えている感じがしますね。ラクに打てるような気がします。
──下半身強化の目的はどこにあったのでしょうか。
柳田 バッティングだけじゃなく、走塁も守備も、すべてのプレーに下が大事だと思いますので。中でもバッティングは、自分、足を上げてタイミングを取るんで、そういうところで下がしっかり使えないとバッティングが狂っちゃうんです。
──足を上げてタイミングを取る難しさを教えてください。
柳田 まず、バットを持ってピッチャーの方を向いて、片足でバランスを取って“ピタッ”て止まるのも難しいところです。そこからゆっくり足を下ろしていくんですが、その動作もしんどいんですよ。そういうところで下がうまく使えずにちょっとでも狂ってしまうとタイミングは取れません。そこでしっかりタイミングを取るためにトレーニングはしないといけないと思ってやっていました。
──反動でフルスイングするのではなく、足を静かに下ろしてから振り切るのがポイントですね。
柳田 そうっすね。“バターン”っていったら上体がブレますし、ピッチャーの球って速くて動いてくるんで、少しでもブレるとそこで全部がずれちゃうっていうのはあるんで。やっぱ、そこ大事ですよ。
──昨季はフルスイングを続けることの体力的な難しさを言葉にされていました。
柳田 そこで下半身強化ですね。
──昨年は打率.317、15本塁打、70打点、33盗塁の成績を残しましたが、この数字をどう評価していますか。
柳田 打率はボチボチだと思うんですけどね。ホームラン、打点っていうのはまだまだです。
──「トリプルスリー」が目標だと口にしていますが、達成のポイントはどこにありますか。
柳田 いや、全部ですよ。全部っす。全部ハードルが高い数字だと思うんで、どれというのではなく、全部です。

2月12日に行われた紅白戦では大場から推定130メートルの特大本塁打。フルスイングの進化を印象づけた