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第87回選抜高校野球大会リポート

敦賀気比が北陸勢初の頂点へ

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決勝で東海大四を下して優勝を飾った敦賀気比。初制覇への原動力となったエースの平沼を中心にマウンドで歓喜の輪が広がった(写真=石井愛子)



文=岡本朋祐

明暗分かれた8回の攻防
松本の一発でつかんだ紫紺の大旗


第87回選抜高校野球大会決勝戦

4月1日=甲子園球場 [東]●大澤-小川[敦]○平沼-嘉門 本塁打:松本3号(2ラン=大澤)■観衆=1万7000人 ■開始=13時28分 ■終了=15時28分(2時間)■審判=若林(球)古川、美野、橘(塁)



 こんな結末を、誰が想像できたか。だから、高校野球は面白い。見応えのある8回の攻防だった。4月1日のセンバツ決勝はどちらが勝っても初優勝。東海大四は北海以来、北海道勢52年ぶりの決勝進出。一方、敦賀気比も福井商以来、福井勢37年ぶりの頂上決戦。敦賀気比は北陸勢としても、初悲願がかかっていた。

 朝からの雨のため、予定よりも約1時間遅れのプレーボール。決勝独特の緊張感の中、初回に両校は1点ずつを挙げる。その後は敦賀気比・平沼翔太(3年)、東海大四・大澤志意也(3年)の両右腕による投手戦。敦賀気比は4回裏に無死満塁、東海大四も7回表に一死二、三塁のチャンスを逃している。あと一本が出ない、スリリングな展開が続く。

 8回に試合は動いた。東海大四は先頭の邵広基(3年)が中二塁打で出塁すると、塩田元(3年)の投前バントを、平沼は判断良く三塁送球。タイミングはアウトであったが、二走のプレッシャーもあって主将・篠原涼が落球。無死二、三塁と絶体絶命のピンチを迎える。打者は大澤だ。七番打者は準決勝までにチームトップの7安打。この決勝でも平沼のチェンジアップをバットで拾う技ありの中前打と、打撃センスもチーム屈指だった。打たせても良い場面も、東海大四は1点を取りに行った。

 一塁ベンチの敦賀気比・東哲平監督と捕手・嘉門裕介(3年)は相手の作戦を読んでいた。カウント1ストライクからウエストし、痛恨のスクイズ失敗。三塁走者は三本間に挟まれ、大澤は三振。続く立花奏(3年)の一塁左への痛烈なゴロは、上田竜也(3年)の好守に阻まれた。

 この決勝、敦賀気比にとって最も怖かったのが“達成感”だった。前日の準決勝で、昨夏の準決勝で壮絶な打撃戦の末に惜敗(9対15)した大阪桐蔭に雪辱に成功(11対0)している。当時、2年生エースの平沼翔太(3年)にとって「忘れられない試合」。

 東海大四・大脇英徳監督としては「それが、野球の奥深さ。そこ(達成感)を狙っていくということ」と目論んでいた。準々決勝では健大高崎(2回戦で昨年秋の近畿王者・天理に勝利)、準決勝では浦和学院(準々決勝で県岐阜商の152キロ右腕・髙橋純平を攻略)と、2試合ともそのスキを突き、無欲の東海大四が競り勝っていた。

 1986 年の創部当時の初代部長である敦賀気比・林博美部長は「達成感? 多少はありました。1プレー1プレーに緩慢。でも最後はよく守りました」と、決勝後に明かした。全5試合完投のエース・平沼を軸とした堅守が支えたのだ。

 8回をしのぎ、場内のムードは完全に敦賀気比。タイミングの悪いことに、大澤は先頭の平沼を四球で歩かせる。山本皓大(3年)がバントで送って、打席には松本哲幣(3年)を迎える。カウント1ボールからのスライダー。「アウトローいっぱいのボール球で良かったが、中に入った」(大澤)。「平沼が苦しい中、良い投球をしていたので絶対、助けたい」(松本)。フルスイングした打球は左翼越えへ。準決勝で大会史上初の2打席連続満塁本塁打を放った背番号17が、この日も一振りで試合を決めた。

1対1の同点で迎えた8回、敦賀気比の松本が決勝の2ランを左翼席へたたき込んだ(写真=石井愛子)



 9回表を抑え敦賀気比初優勝。東監督は「この瞬間を目指してやってきたので、最高の気分です」と喜びを口にした一方で、東海大四・大脇監督は「よくやった、とは声をかけるつもりはない」と大きく明暗が分かれた。ちょうど2時間の決勝戦に、野球の醍醐味を見た。

決勝翌日の4月2日、学校で優勝報告を行った敦賀気比ナイン(写真=太田裕史)



第87回選抜高校野球大会

※丸数字は延長回数

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