全投票者から6分の1の支持を得て堂々のトップに立ったのは、3年ぶりの完全復活を目指す竜のエースだった。先輩の技術を盗み、また自ら必死に考え抜いて磨き上げた自らの投球術について、余すことなく語ってもらった。 取材・構成=吉見淳司 写真=大賀章好 ※取材日は5月25日 球速は求めていない
──今回の「投球術ランキング」で20票を集めて現役部門1位に選ばれました。率直な感想はいかがですか。
吉見 うれしいですね。変な言い方ですけど、マスコミが選んだわけではなくて、チームの選手や首脳陣に選んでもらっていますから。コントロールにこだわっているので、そこで評価されるのはありがたいですし、少ないですけどパ・リーグの方からも投票していただいているのをうれしく思います。

各選手の投票結果をチェック中。チーム在籍中の首脳陣、選手からのコメントだけに喜びもひとしお
──確かに制球力を評価する声が目立ちます。
吉見 ピッチャーって誰しも、スピードボールを求めたがる思いは強いと思いますし、僕も今でも「速いボールを投げたい」という気持ちはあります。ただ、若手のころ、森(繁和)さんに「150キロを超えるボールがあるんだったらいいけど、出ても145キロだろ。それで抑えようとするのは無理だ」と、まず言われたんですよ。さらに選手専任だったころの谷繁(元信)監督からも、「お前のスタイルはストライクゾーンの低めで勝負する投手だろ」とも言われました。ですが、自分の中ではやっぱり、スピード出た方が見栄えがいいし、変な話、投手は球速で評価されがちじゃないですか。
──最速○○○キロ投手という表現をよく使います。
吉見 マスコミはすぐそうやって言いたがるじゃないですか。以前は僕もそれでいいと思っていましたし、当時は“速い者勝ち”だと思っていたんです。入団3、4年目までは速いボールを投げるためにはどういうフォームが一番いいのかなと求めていたんですけど、一つのきっかけでひっくり返されたんです。
──どのような出来事だったのでしょうか。
吉見 現在はウチにいる小笠原(道大、当時
巨人)さんに、ベストボールを、完ぺきに打たれたことがあるんです。「どんなに速いストレートを投げても、こういうバッターには簡単に打たれてしまうんだ」とマウンド上で思い知らされて、そこからコースを狙うようになりました。ストライクゾーンの低めで打ち取るスタイルで生きていこうと思うようになり、スピードボールは捨てましたね。なので、こうやってコントロールで評価していただいているのはすごくうれしいですね。
──それほどまでに自信のあった1球だったんですね。
吉見 大げさに言うと、野球人生を覆されました。「これじゃ生きていけない」と思いましたね。その前から谷繁さんには口酸っぱく言われてはいたんですけど、ちょっと耳が“ちくわ”状態だったというか(笑)。今はもう、140キロ出なくてもいいから、ここというときにミスをしないように、その確率を高めようと考えています。
──小笠原さんとチームメートになり、当時の話をしたことは。
吉見 ありませんが、キャンプ中に食事会場で小笠原さんが話していたのをちらっと聞いたときに、「ボール2個分くらいなら外れていても打てる」と言っていたんです。ボール2個外れていたら、バッターボックスのラインまで行ってしまうじゃないですか。それを聞いて「あ、そりゃ簡単に打たれるわな」と思いましたね(笑)。そのことに関してはしゃべっていないですし、多分覚えてらっしゃらないでしょうね。
──ただ、吉見投手にとっては……。
吉見 鮮烈な思い出ですね。大きなきっかけの一つです。
先輩・金子の教え

日ごろの日常生活、練習での心構えが試合中のここ一番で生かされる(写真=桜井ひとし)
──ランキング2位の
金子千尋投手(
オリックス)は、トヨタ自動車時代の先輩です。
吉見 僕が勝手に思い込んでいる師匠です。昨年、沢村賞を初受賞されましたが、僕の中では昔からNO・1の投手だと思っています・・・
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