激闘が予想される2015年の日本シリーズ。ソフトバンクとヤクルトの対戦となったが、果たして日本一の栄冠をつかむのはどのチームか。野球評論家の篠塚和典氏と荒木大輔氏に勝敗の行方を徹底予想してもらった。 元巨人・篠塚和典「4勝2敗でソフトバンク」
今年1年の戦いぶりを見ても、ソフトバンクにつけ込むスキがない。ここまで順調に勝ち進んできた。選手たちは前評判どおりに力を発揮しており、日本シリーズも同じような戦いを見せるのではないか。その強さは誰もが認めるところなのに対して、ヤクルトはそこまで強さを見せてきたわけではない。さらに、ソフトバンクには昨季の日本シリーズを戦った経験がある。その差も大きい。
短期決戦で勝つには、クリーンアップがレギュラーシーズンと同じように打てるかがポイントとなる。クライマックスシリーズ(CS)と同じで「打たないと勝てない」。お互いにいいピッチャーで勝負するため、差が出るのは打線だと思う。
ソフトバンクの打線はどこからでも点が取れる。いわゆる、切れ目のない打線だ。しかも、誰かの状態が悪くても、ほかの選手がカバーできる。CSで
柳田悠岐、
松田宣浩が調子を落としたが、シーズン中に不調だった
内川聖一が活躍した。2人の不調が大きな問題にならないほど、戦力がそろっている。
カギを握るのが柳田だろう。彼のバッティングには迫力があり、ファンは誰もが彼の活躍を見たいと思っている。柳田が打つとチームはもちろん、ファンも乗ってくる。その結果、球場全体を自分たちに引き寄せることができる。選手はファンの声援を肌で感じて力を発揮するものなので、球場の雰囲気は重要である。

「柳田は球場全体の雰囲気を変える力がある」(篠塚)
ヤクルトで柳田のような存在になるのは
山田哲人だろう。山田が打てばヤクルト打線が活気づく。また、
バレンティンが活躍すれば、大きなプラスになる。昨年のように本塁打を量産した状態に戻ればいいが、現状ではそれほど怖くない印象だ。長期離脱のブランクもあり、活躍を期待するのは難しいかもしれない。
短期の戦いで個々の選手が意識しなければならないのは、どうすれば点を取れるかという点だ。ヤクルトに敗れた
巨人のように、取れるところで点を取らないと勝機を逃す。具体的に言うと、無死一、三塁の状況で、「1点失ってもいい」と、相手が内野の守備陣を下げたときに、しっかり内野ゴロを打って1点を取れるかどうか。走者が三塁にいる状況で打席に立てば、誰でもヒットが欲しくなる。ただ、最悪でも内野ゴロで1点を奪うことが必要になる。
これは2ストライクに追い込まれてからではバットを振れなくなるため難しい。自分の技術を生かして、守備位置が下がっている方向に打つ。引っ張って一ゴロや三ゴロ、あるいは内野フライで1点も入らないような打撃だけはやってはいけない。1点でもいいから確実に取るという思いでいけば、仕事はできるはずだ。
大事なのは状況に応じた打撃を心掛けることだ。もし、自分の調子が悪ければ、粘って四球を選んで自分より調子のいい選手につなぐ方法もあるはずだ。「つなげるんだ!」という強い気持ちになれるかどうか。
ペナントレースは長いので、シーズン中はいろんなこと考えながらやっていい。戦っている中で、あとで取り返すことができるからだ。しかし、短期決戦は状況判断を誤るとすぐに敗れて終わってしまう。打つだけでなく、守りでもしっかりと状況判断をしなければならない。
PROFILE しのづか・かずのり●1957年7月16日生まれ。千葉県出身。76年ドラフト1位で巨人入団。82年に二塁手のレギュラーに定着すると、巧みなバットコントロールで打率3割を7度マーク。84、87年の2度、首位打者を獲得した。94年限りで現役引退。プロ通算成績は1651試合、1696安打、92本塁打、628打点、打率.304。ゴールデングラブ賞も4回。95~2003年、06~10年に巨人でコーチを務め、6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献。09年のWBCでは打撃コーチとして日本代表を世界一に導いた。
元ヤクルトほか・荒木大輔「4勝2敗でソフトバンク」
強大な戦力を誇るソフトバンクにヤクルトがどこまで食らいつくか、日本シリーズの焦点はそこに絞られるでしょう。とにかくソフトバンクは万全。
ロッテと対戦したクライマックスシリーズ(CS)ファイナルでも、例えば先発がもたついたとしても
寺原隼人が待機していましたし、中継ぎでは復調したバリオスがいい球を投じていました。それに
千賀滉大も目を見張る投球。特に日本シリーズ進出を決めた第3戦では、7回途中から登板して、8回まで相手をゼロに封じ込めました。
この千賀の使い方にも、ソフトバンクの強さが表れているようにも感じました。シーズン中だったら、8回に
五十嵐亮太を投入していたかもしれません。しかし、短期決戦ということがあったのでしょう。千賀が行けると判断して8回も続投。シーズン中の勝利の方程式にこだわることなく、相手に反撃させない確率が高い方を選択。
工藤公康監督をはじめ、現役時代に日本シリーズなどの短期決戦の経験が豊富な首脳陣がソフトバンクにはそろっています。そのあたりも大きなアドバンテージになるように思います。
首脳陣だけではありません。ソフトバンクは選手も十分に経験を積んでいます。CS前、ソフトバンクはみやざきフェ
ニックス・リーグで実戦を行うことなく、本拠地での紅白戦などの調整で決戦に臨みました。しかし、いざ本番となっても、まったく試合勘のにぶりを感じませんでした。それができるのは、百戦錬磨の選手たちだからこそ、でしょう。
打線も強力です。特に柳田悠岐、内川聖一、
李大浩、松田宣浩の三~六番。以前、
日本ハムの首脳陣が言っていたのですが、この4人はすべて打者としてのタイプが違うから、余計に抑えるのが困難だ、と。さらに全員が不調に陥ることがない。例えば柳田、内川が不振でも李大浩、松田が仕事をする。非常に神経を使う相手ですが、ヤクルトにとってはここを巧みに分断するしかありません。つながれたら一気に大量点を失ってしまう可能性が高まりますから。
とにかく、ヤクルトにはまず、普段どおりのプレーを心掛けてもらいたいです。それは攻撃的にプレーするということ。初戦を取ることも大事ですし、そのためにはまず先制点を奪うことでしょう。そして、先制したとしても、すぐに追いつかれないことも重要です。CSファイナルでロッテは第1戦で3回に2点を先制しましたが、その裏、同点に追いつかれて流れを完全に引き寄せることができませんでした。
キーマンはソフトバンクは内川、ヤクルトは山田哲人でしょうか。ソフトバクはCSでも四番の内川が見事に機能して、周りの打者がすごく気楽になったように見えましたから。ヤクルトは巨人とのCSファイナルで初戦負けましたが、このとき山田は無安打。翌日は得点に絡む2安打をマークしてチームに勝利を呼び込みました。やはり、山田が打てばチーム全体が活気づくのは間違いありません。

山田が打てばチームは活気づく。勝利を呼びこむプレーに期待したい
長い歴史を誇る日本シリーズで初めての顔合わせとなる両チームの対戦。いずれにせよ、熱い戦いを期待しています。
PROFILE あらき・だいすけ●1964年5月6日生まれ。東京都出身。83年ドラフト1位でヤクルト入団。85年に6勝を挙げて頭角を現すと86、87年には開幕投手を務めて8、10勝をマーク。その後、ヒジや腰の故障に苦しむも、92年に奇跡の復活を果たし、同年のリーグ優勝、93年の日本一に貢献。96年横浜に移籍し、同年限りで引退。プロ通算成績は180試合、39勝49敗2セーブ、防御率4.80。04~07年まで
西武、08~13年までヤクルトコーチを歴任した。