「一塁ランナー、ゴームズに代わり、オコエ」
3月25日の開幕戦。7回に背番号9が三塁側ベンチから勢いよく飛び出すと、2万5083人で埋まったKoboスタ宮城の空気が一変する。
続けざまに起こったのが「走れ!走れ!オ・コ・エ!」の大合唱。2016年の“オコエ劇場”開演となった。
高卒ルーキーとしては球団初の開幕戦出場。とはいえ、主な仕事は試合終盤の代走と守備固めである。そんな発展途上の18歳がなぜ、これだけの声援を浴びるのか。確かに185センチ90キロというダイナミックな体格は、ほかのレギュラー選手と比べても決して見劣りはしない。ただ、バッティングでは、まだまだ未熟な部分が目立っているのが現状だ。
開幕前、暗いニュースが続いた野球界。どこか閉塞感を感じていたプロ野球ファンが求めているものは、「何かやってくれるのでは?」という非日常的な意外性、そしてワクワク感なのだろう。その体現者として、オコエが選ばれたのかもしれない。とりわけ目を引くのが、野球に対するあくなき探究心だ。春季キャンプ前の本誌インタビューで、彼はこんなことを語っていた。
「先輩に対してはもちろん、友達感覚というわけにはいかないですけど、プラスになることが多いので遠慮せずにいきます。経験豊富な方は、僕にないものを持っているので」
とにかく天性の人懐っこさがあり、好奇心旺盛。春季キャンプからマンツーマン指導を行ってきた
池山隆寛打撃コーチは「教えたことについてのみ込みが早いし、技術については目を輝かせて聞いてくる」。
松井稼頭央らベテラン選手に対しても、質問攻めにしているという。
途中出場した開幕2戦目の延長10回、四球を選んで塁に出ると、5度のけん制をかいくぐり4球目にスタート。大きなストライドと鋭いスライディングでプロ初盗塁に成功し、「よっしゃ!」と吠えた。
「ベースの近くで突き刺す走塁を意識しろと、ヨネさんに言われたので」
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開幕第2戦の8回にプロ初盗塁を決めて歓喜の雄叫び。気合たっぷりのプレーに観客は大喜びだった
57歳の
米村理外野守備走塁コーチを「ヨネさん」と呼んでしまうところも実に彼らしい。また、同期入団の大卒内野手、
茂木栄五郎を「エイちゃん」と呼んで慕っているという微笑ましいエピソードも。このルーキーは、バイタリティーあふれる人間性を持ち合わせている。
初めて中堅守備に就いた際には2者連続で打球を処理。オコエに向けて飛球が上がるたびに大歓声に包まれ、キャッチすればさらに沸く。ファンの注目度は、ほかのどの選手よりも高いのである。
梨田昌孝監督は「何かを持っているね」と目を細める。「話題先行型」、「二軍で実戦経験を積ませるほうがいいのでは……」。そんな声が根強く残るのも事実。4月3日、本拠地での先発デビュー(二番・中堅)は3打席凡退だった。ただ、オコエが一貫して口にするのは「とにかく勉強です」。この向上心と、成長過程でしか発することのできない輝きこそが、
オコエ瑠偉という野球選手の魅力なのかもしれない。