ここまでの特集を読み、実際に新球を試してみたい読者も多いはず。だが、その前にぜひ、このページを一読してもらいたい。投手にとっての良い変化球と、打者、あるいは捕手から見た良い変化球は同じなのか。強打の捕手として知られ、リーグ優勝、日本一、WBC優勝を経験している百戦錬磨のOBに変化球論を聞いた。 取材・構成=吉見淳司、写真=BBM なぜ変化球は打ちにくいのか
よくプロとアマの投手の違いとして、球速やコントロールの精密さが挙げられますよね。では、変化球においてのそれは何か、と考えると、変化のキレだと言えるでしょう。曲がり幅や落ち幅の大きさや、ストレートとの球速差などが大きく違うところです。
ただ、プロの打者ならば、「○○を投げます」と言われて投げられれば、どんなボールでも打ち返すことはできます。変化球を打つのが難しいのは、ストレートを意識させられているから。僕の現役時代を振り返っても、この投手のこの球種というのは特にないんです。
松坂大輔(
ソフトバンク)など、ストレートのいい投手のほうが印象的ですね。
身もふたもない言い方ですが、来るのが分かっていても打ち返せる確率が最も低いボールは、速いストレート。なぜ変化球を打つのが難しいかというと、ストレートがいつ来るかが分からないからだと言えるでしょう。
また、変化が大きいからいいボールということでもありません。変化が大きいということは、曲がり出し(落ち出し)が早く、スピードもないということでもあります。バッテリー間の距離は18.44メートルしかないのですから、変化には限界があります。フォークとスプリットのように、一概にどちらが優れているというものではなく、状況によって変わるものです。
キャッチャー目線で考えると、大切なのは変化の大きさではなく、その球種を思ったところにコントロールできるかどうか。極端に言えば、満塁でスリーボールノーストライクとなった場面で、そのボールを投げられるか、です。
球種が多いに越したことはないでしょうが、どこに行くか分からないようならあまり意味はありません。その時点で変化球として成立していないですよね。それはただボールを投げているだけです。少なくとも先発なら3球種、リリーフなら2球種(これはストレートを含めてです)、そのようなボールを持っていないと厳しかったですね。
これは1つの球種がダメでも、ほかのボールで何とか勝負できるから。それでも1球種で抑えられるのは1イニングまで。1イニングなら1球種だけでも、相手に「もしかしたらもう1つは隠しているのかも」と思わせることができますからね。でも、最低でも5回、6回を投げなければいけない先発だと、2つは決まらないと難しい。
さらに言うと左投手で、プロで先発ローテーションに入りたいのなら、フォークかチェンジアップがその3つの中に入ってこないと無理です。それは右打者のインコースに入ってくるボールしかなくなってしまうから。それでは現在の野球では通用しません。
ロッテで言えば、
小宮山悟さんはいろいろなボールを投げられましたね。僕が組んだころはもう全盛期ではなかったですが、それでも7球種くらいあって、単純に5本の指だとサインが足りない。いろいろな組み合わせでカバーしました。現役では
涌井秀章も器用なタイプですね。
新入団してきた投手には「ストレートも含めて得意な順番に言ってみて」と話すようにしていました。5球種あるなら、一番から五番まで。投手によっていろいろな優先順位がありますし、その信頼度も違いますが、共通して言えるのは、投手に自信がないボールは使えないということ。たとえ本人が口では「得意です」と言っても、受けてみれば本当かどうかは分かるものです。
ボールを受けていて「このボールがあればもっと引き出しが増えるのに」と思うこともありましたが、それを投手に伝えることはありませんでしたね。それは投手コーチの仕事であって、キャッチャーの仕事は現在の状態で、どうやって組み立てるかを考えること。投手の練習に付き合えるわけではありませんからね。それに付き合うよりも、相手打者の研究などが先ですから。
打たれてもいい場面ではあえて苦手な球種を投げさせて、しっかり練習しろよ、と伝えることはありましたが、それで実際に使えるようになるかは投手次第。そこで自分を磨けないようであれば、一軍にはいられないというだけです。
変化には限界がある
傾向として言えるのは、1人の投手の持ち球は昔よりも増えていることでしょうね。
杉下茂さん(元
中日)のフォークや
江川卓さん(元
巨人)のカーブなど、以前は先発でも、何か1つ優れた変化球があれば抑えられましたが、今はそうもいきません。
全般的に器用になっているのは、今回の週刊ベースボールのように、誌面や映像でいろいろな投手の投げ方を見ることができるようになったことが大きいでしょう。
ツーシームやカットボール、
ナックルカーブなど、僕がプロ入りしてからもいろいろな球種が登場していますが、僕に言わせれば、これはただ名前がついたというだけ。ホップするボールというのは物理的に無理なので、変化は180度分度器の中に納まります。さらに言えば、スライダー系、カーブ系、フォーク系、シンカー系、
シュート系という分類で事足りると思います。
球種なんてピッチャーの言ったもん勝ちですよ。変化がシュートでも、投手がツーシームといえばツーシーム。大切なのは呼び名に惑わされず、自分の中でどう考えるかです。
バッターなら実際の軌道を把握し、打つ。キャッチャーなら使いどころをしっかり見極める。これからもいろいろな新しい名前が登場するでしょうが、それらはすべて、以前に誰かが投げていたものです。
わが思い出の投手たち
これまでいろいろなタイプの投手とバッテリーを組んできましたが、例えば
小野晋吾さんの場合はシュートがストレートの代わりのようなもので、基本はカットボールとスライダーの3球種で組み立てていました。「困ったらシュートを投げさせていればいいか」というように(笑)。リーグ優勝した2005年はみんな140キロ後半は出ていましたね。直さん(
清水直行)や宏之(
小林宏之)も。小野さんもシュートで146キロくらいは投げていました。先発で145キロ以上出ていなかったのは
俊介(
渡辺俊介)だけ。それでもストレートにキレがあったので、ストレートでも十分押せていましたけどね。
PROFILE さとざき・ともや●1976年5月20日生まれ。徳島県出身。鳴門工高から帝京大を経て、99年ドラフト2位でロッテに入団。2年目の2000年に一軍出場を果たすと、次第に出場機会を増やし、05年の日本一、06年のWBC優勝に貢献。以降は不動の正捕手としてチームの中心に。10年にもリーグ3位からの下克上日本一をけん引した。14年に現役引退。現在は野球解説者として活躍中。