2023年の高校生で最も経験を積んでいる。2年春のセンバツ優勝、同秋は明治神宮大会で2年連続の頂点へと導いた。主将兼エースの役割を託され、人としての幅も広げており、148キロ左腕の評価は高まるばかりだ。 取材・文=岡本朋祐 写真=宮原和也 
学校、グラウンド、合宿所を中心とした生活で、心身ともレベルアップ。束の間のリフレッシュは、合宿所でゆっくりと風呂に入ることだという
帽子のツバの裏に、黒ペンで「華」と書かれている。
前田悠伍は達筆であるチームメート・村本勇海に依頼。縁起の良い文字で、華麗なピッチングをした上で、チームの勝利に貢献する、という意味が込められている。
テンポの良い投球。自らのペースに引き寄せ、打者を追い込んでいく。独特な世界観を生み出しているのも、マウンド上では常にポーカーフェイスで、表情を一切変えないからだ。スコアブックに1球1球を記すのも、不思議とリズム感が出てくる。いつまでも見ていたいと思わせる、完成度の高い投球スタイルが持ち味だ。
「打者の構え、雰囲気。ボールの見逃し方を1球見れば、狙い球を察知することができる。そこでずらすのか、押すのかを選択していく。そういう感覚は、持っていると思います」
最速148キロ左腕だが、実戦におけるアベレージは140キロ台前半。驚くような数字ではないが、打者の手元で伸びる。試合展開によってギアチェンジ、つまり、強弱ができるから、ストレートはいくつもの球種を操っているように見える。スライダー、ツーシームで出し入れができ、カーブ、チェンジアップで緩急をつける。対戦した相手校の監督や選手たちは、前田を「世代No.1」と絶賛するのも、よく分かる。
「そう言っていただけるのはうれしいですけど、評価していただいている以上は、下手な投球はできない。周りの声は気にせずに、自分の投球を貫いてやっているだけです。研究されて打たれたら、そこまでのレベル。対策の上をいく内容で結果を求める」。常に勝利が宿命である、大阪桐蔭高の主将としての風格があった。
中学生離れした投球センス
父・孝博さんは地元・滋賀の伊香高の野球部出身で投手兼遊撃手。母・由香さんは高校時代に陸上競技に取り組み、持って生まれたDNAが前田にはある。伊香高で外野手兼投手だった4歳上の兄・詠仁さんの影響で、小学2年から野球を始めた。
「小さいころから兄のプレーを見て、追いつきたい、追い越したいと思っていたんです。負けず嫌いで、遊びで対戦しても、自分が勝つまで続ける。高校時代も五番打者で活躍している姿を見て、カッコいいな、と」
バランスの良い投球フォームは・・・
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