7回目の本戦出場で史上初の快挙である。激戦区・東京で第1代表。春の東京都企業大会から無傷の6連勝と、圧倒的な強さを見せた。接戦を制することが、殻を破った一因だ。 取材・文=楊順行 写真=菅原淳 【後編】はこちら 
JR東日本との第1代表決定戦は序盤から主導権を握り、相手にペースを渡さず、8対2で快勝した[写真=BBM]
「選手やコーチの姿を見たら、涙が止まりませんでした」
5月31日、JR東日本に8対2で勝利した岡村憲二監督の言葉である。1958年の創部以来、初の東京第1代表。昨年は「不安を抱えたまま、東京二次予選に突入した。就任3年目の今シーズンは、勝負をかけていた」からこその涙である。

「野球と生きる」を体現した2023年だ
手応えは、あった。昨季、チーム防御率は3.69。急務だった投手陣の立て直しに、
西武などで54勝した
新谷博氏に外部コーチ(ヘッドコーチ)を依頼。「1日250球など、固定観念を捨てて取り組んだ」(岡村監督)。いまの時代、非常識とも言える投げ込みだが、投手陣の反応は「やってみると、意外と大丈夫」で、再現性の向上につながった。新谷コーチはほかにも、配球や打者の反応を見るスキルを伝授すると、結果はすぐに出た。3月末の東京都企業大会は、3勝して優勝。総失点は6で、しかもそのうち2失点はNTT東日本とのタイブレーク10回のものだ。
「しかもあの試合は、どしゃ降りの中断もありながら2点差の9回に追いついた。ロースコアの接戦に勝ち切れない、これまでの殻を破った感じでした」(岡村監督)。正捕手の森川大樹(法大)の分析は、こうだ。
「今季のテーマはストライクゾーン、しかも低めで勝負すること。僕自身は四球を出させないことを心掛けました。それで余計な走者を出さなくなり、複数失点が減った。僅差で試合が進めば、劣勢でも『まだまだ』というつもりで攻撃できるんです」

就任3年目の岡村監督は過去2年、第4代表決定戦で敗退した悔しさを晴らした
投手と打線の連鎖反応
準優勝したJABA四国大会でも、1対9で7回
コールド敗退したENEOSとの決勝を除けば、4試合で7失点。ベスト4まで進んだJABA日立市長杯でも、予選リーグ3試合は6失点の投手陣が攻撃にリズムを呼んだ。そして東京二次予選でも、3試合わずか3失点。三宮舜(慶大)、高杉勝太郎(東海大)、竹田和真(早大)が先発し、中継ぎに石毛力斗(明大)、新井悠太朗(法大)ら、抑えには中崎響介(立大)。さらに「中継ぎも先発も行ける
小玉和樹(国学院大)の成長が大きい」(岡村監督)と、コマは十分にそろっている。主将で四番に座った
森龍馬(法大)は言う。
「これまでは、競った展開で打線がなかなか点を取れず、ピッチャーが粘れずに負ける試合が多かった。ですが今シーズンは、ピッチャーがよく頑張ってくれるので、打線にもいい連鎖が生まれていると思います」

日大三高、法大で主将を務めた森は、明治安田生命でもキャプテンとしての存在感を発揮する
たとえば、セガサミーとの第1代表決定トーナメント準決勝だ。高杉が1失点で5回を踏ん張り、継投した小玉も無失点で1対1と同点の9回表。二死一、二塁から新城拓(中大)に勝ち越し3ランが飛び出し、その裏も小玉がきっちり締めている。殊勲の新城は、二塁手としてセンターラインを締める守備の要だが、打撃に関しても、「今季はコンタクト率を上げる取り組みをしてきて、その成果が出ています」と言う。この新城と森川は7年目、泉澤涼太(中大)は8年目、主将の森は6年目と、打線には中堅・ベテランが多く、「安定して引っ張ってくれるのは頼もしい」と岡村監督は明かす。

入社7年目の新城[左]が打線のけん引役となり、同期の正捕手・森川[右]が守りを締める
初戦が上位進出へのカギ
レギュラーをほぼ固定して臨みつつ、むろんチーム内競争は熾烈だ。三塁手で期待されていた3年目の金子銀佑(早大)が突き指で離脱すると、2年目の橘内俊治(早大)が台頭。第1代表を決めたJR東日本との代表決定戦では、3安打3得点とこれ以上ないリードオフマンぶりだ。新人・
日置航(明大)も、指名打者として出場機会を増やしている。
「東京ドームでも、競争は続きます。たとえばショートの
高瀬雄大(明大)には『NTT東日本から補強した中村迅選手(法大)との争い。良いほうを使うよ』と告げてあります」と岡村監督。森主将が目指すチーム像は「常勝」だ。四国大会決勝では、「常勝」を象徴する前年王者・ENEOSに完敗も「学ぶべきことがたくさんありました」と前を向く。ちなみに……森川の父はENEOSの社員で「いつも『ウチは強いぞ』と言われてばかり(笑)。都市対抗という同じ土俵に立つ以上、勝ちたいですね」。この大会でもし両者が当たるとしたら……舞台は決勝。「まずは初戦(対西部ガス)。そこを突破すれば、自信はあります」。岡村監督の宣言だ。

東京都八王子市内のグラウンドは、緊張感が漂う。この空気感が東京ドームにつながるのである
TEAM DATA 明治安田生命硬式野球部 ●所在地/東京都千代田区
●創部/1958(昭和33)年
●都市対抗実績/出場6回
●日本選手権実績/出場6回
●顧問/熊井毅
●部長/今泉宏久
●監督/岡村憲二
●ヘッドコーチ/新谷博
●コーチ/大野大樹、井村滋(兼外野手)、 小
林昌樹 ●アナライザー兼コーチ/玉熊将一、笠井皓介
●マネジャー/本郷佑弥
●テクニカルアドバイザー/浜田典宏
●トレーナー/橋本果歩
【東京地区二次予選結果】 ▼第1代表決定トーナメント
1回戦 11(8)0全府中野球倶楽部
準決勝 4-1セガサミー
代表決定戦 8-2JR東日本
※()数字はコールド回数