球団創設90周年のメモリアルイヤーに、第20代巨人軍監督に就任した。主将として、四番として、扇の要として、「常勝」の伝統を受け継いできた男が、強い決意を胸に伝統球団の指揮を執る。その野球観、そして自らに課された使命とは。 文=鷲田康(スポーツジャーナリスト) 写真=BBM
※情報・成績は6月9日時点 指揮官の野球観
阿部野球を象徴する場面は、交流戦開幕戦となった5月28日の東京ドーム、巨人対
ソフトバンク戦の采配だった。
1点を追う6回の攻撃。四球と盗塁、内野安打で作った無死一、三塁のチャンスで阿部慎之助監督はセーフティースクイズのサインを出した。
ソフトバンクの内野陣は二遊間が中間守備のゲッツー態勢。同点は仕方ないというシフトで、セオリーなら併殺覚悟で強打という場面だ。そこであえてのセーフティースクイズのサイン。しかし、二番・
オコエ瑠偉のスクイズは失敗、一塁走者を二塁に進めるだけとなった。
試合後の指揮官はサインの意図をこう説明している。
「ノーアウトでしたし、(三塁走者の生還は)打球判断になって、ベンチの都合のいいサインになってしまうけど……。一死二、三塁で逆転の形はつくれた。そこで打てなかった」
もし強攻して内野ゴロで併殺となると1点が入って同点に追いつくかもしれない。ただ、開幕から続く打撃不振。長打も少なく、1点を取るのに四苦八苦する打線状況では、同点に追いついても、走者がなくなり次の手立てを失うことになる。スクイズが成功すれば同点で一死二塁、たとえ失敗しても一死二、三塁と得点圏に逆転の走者を置いてクリーンアップを迎えることになる。
同点を拒否して、一気に逆転を狙う作戦。それがこのセーフティースクイズの意味だった。
結局、この場面は後続が続かず無得点に終わり、試合は3安打で完封負け。その結果、この作戦は批判に晒(さら)された。おそらく阿部監督も承知の上だ。ただ、消極的、安全策という評価だけは当てはまらない。チーム状況、打線の力を考慮すれば、この作戦は批判を恐れずに阿部監督が打った攻撃的な勝負手だった・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン