野球に加え陸上競技やラグビーなど、複数のスポーツに力を入れるHonda。今夏の都市対抗では、東京ドームに3拠点の野球部が勢ぞろいする。昨年はいずれも予選敗退と苦杯をなめたが、時間をかけて立て直した。目指すは王者の証・黒獅子旗。Honda勢による頂上決戦も夢見て戦う。 文=大平明 写真=藤井勝治、橋田ダワー、佐々木亨 
左からHonda熊本[大津町/九州第2代表]主将・竹葉章人、Honda[東京都/東京第3代表]主将・辻野雄大、Honda鈴鹿[鈴鹿市/東海第3代表]主将・長野勇斗
スポーツが持つ価値を最大限に生かす
「Honda Sports Challenge」と銘打ち、スポーツ振興に力を入れているHonda。現在は企業所属の公式クラブとして硬式野球部の3チームに加え、陸上競技部、ラグビー部、サッカー部、ソフトボール部と5競技で7チームを所有している。スポーツプロモーション部の松浦康子部長は「スポーツチームはHondaで働く従業員の一体感の醸成に加え、地域など、Hondaを取り巻くさまざまなステークホルダーと連携を深めることを目的に活動しています」と話す。ほかにもゴルフを始めとしたアスリートスポンサー、車いす陸上競技やゴルフトーナメント、熱気球といった大会協賛も行っている。
スポーツプロモーション部は2022年に設立された。「今、自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えており、我々も一層チャレンジしていかなければならない局面にあると認識しています。その中でスポーツが持つ価値を最大限に生かすことが、Hondaを動かす大きな原動力になるのではないかと考えて活動の強化を決めたのが3年前のことでした」と松浦部長。Hondaはグローバルスローガンとして「The Power of Dreams」を掲げてきたが、その「夢を力に」という思いと競技に打ち込むアスリートの姿は親和性が強い。
「スポーツは裾野が広く、たくさんの方に共感を得られる取り組みだと捉えています。アスリートが夢に向かってチャレンジする姿勢を見ることで、社会の中で次の一歩を踏み出そうとしている方々の背中を押すことができればと思っています」
9月に開催される『東京2025世界陸上』にはオフィシャルパートナーとして参加。「34年ぶりに東京で開催される世界最高峰の舞台でマラソンの運営車両などを提供することになりました。自動車やバイクの製造・開発・販売といった現場では、多くの従業員が電動化や環境負荷低減を目指してチャレンジをしていますが、そんなHondaの姿勢や想いも、大会を通じて伝えられるのではないかと考えています」。
スポーツプロモーション部の活動のひとつとして、野球教室や交通安全啓発活動などを行っている。7月には野球部の3チームが一堂に会し、3日間にわたり「Honda・ベースボールマッチ」という交流戦を実施した。第6回となる今年は埼玉の笠幡球場で開催。土曜日と日曜日の2日間は従業員向けのイベントとして試合後にグラウンドを開放し、小、中学生ら子どもたちが野球部選手と共に野球体験を楽しんだ。「8月の都市対抗野球大会の壮行会のような位置づけで多くの方にお声掛けをしたところ、初めて交流戦を知った方もいらっしゃって『行ってみたい』という声をたくさんいただきました。野球は幼少時から馴染みがある方が多く、やっぱり愛されている競技だと感じています」。
昨年1月、Honda硬式野球部は東京へ転籍した。「埼玉にあったHonda硬式野球部は東京都港区に拠点を構える本社の所属となりました。それに伴い選手が勤務する職場の範囲も広がったので、東京、埼玉、栃木など、より多くの事業所の方に応援していただけるような環境作りを進めています。やっぱり自分たちの職場にいる選手が活躍してくれるとうれしいですし、その選手を応援する風土がHondaにはありますから」。
さらにHondaでは、Honda鈴鹿硬式野球部(以下、Honda鈴鹿)とHonda熊本硬式野球部(以下、Honda熊本)が活動しているが、「企業スポーツは地域との連携が欠かせませんが、各地域で温かいサポートをずっといただいており、関係性もより強固になっていると感じています。都市対抗の本大会になると自治体の方々が応援団を結成して東京ドームへ足を運んでくださるので本当に有難く思っています」。
今夏の都市対抗には3年ぶりに3チームがそろって本戦出場を決めている。「それぞれに違った良さがあるので、その魅力をお届けできれば。全力を尽くして、最後まであきらめることなく黒獅子旗を勝ち取りにいきますので、応援のほどよろしくお願いいたします」。

Honda硬式野球部の部長でもある松浦氏。加えて陸上競技部の部長も務める
主将から監督へ直訴しチームで思いを一つに
都市対抗の本戦出場は2年ぶり38回目、東京に所属を移してからは初めてとなるHonda硬式野球部(以下、Honda)。就任2年目の多幡雄一監督(立大)は都市対抗の東京地区二次予選に備えて、さまざまな対策を講じてきた。「予選が行われる大田スタジアムの風に戸惑ったところがあったので対策をしましたし、球場までの移動距離も変わったのでオープン戦ではあえて移動時間を長くしたり、打撃練習をさせずにいきなり試合に臨ませたりして対応力をつけるためのスケジューリングをしてきました」。
昨年は第1代表決定トーナメントで後手を踏み、東京ドームへの切符も逃した。そのため辻野雄大主将(白鴎大)は「東京地区の予選では初戦が大事だと考えていました」と振り返る。今年は初戦(2回戦)でセガサミーを10対0で下し良い流れをつくると、JR東日本との第3代表決定戦は猛打が爆発。3本塁打を含む11安打を放ち、9対2で制した。「出場を決めたのは(3チームの中で)自分たちが最後でした。出られなかったら立場がないと思っていたので本当に良かったです」(多幡監督)。

東京で初の代表をつかんだHonda硬式野球部。3拠点の中では最後に出場を決めた
チームの中心はエースの
東野龍二(駒大)と辻野主将。「東野は昨シーズンの最多勝投手。日本一と言ってもいいピッチャーで今年も同じように勝ち続けてくれています。辻野は都市対抗10年連続出場で表彰されることになるので、花を添えてほしい」と多幡監督は話す。また、JR東日本戦で本塁打を放った
峯村貴希(日大)には「昨年の日本選手権はベンチ外で地獄を見たと思うのですが、今年は覚悟を決めてはい上がってきました」と期待をかけている。

二次予選はチーム防御率1.50。昨年の社会人野球で最多勝利投手賞を初受賞、30歳のベテラン左腕・東野がエースだ
Honda[2年ぶり38回目] ■二次予選の結果 Honda鈴鹿は3年ぶり27回目の出場。今季から指揮を執る眞鍋健太郎監督(駒大)はまず心を整えることを選手に説いた。「野球ができるのは当たり前のことではありませんから、野球をやる意義を考え、感謝の気持ちを持って一球一球を大事にしていこうと話しました」。すると、主将の長野勇斗(青学大)が初練習を前にミーティングをさせてほしいと訴えてきたという。「チームとして何を大事にしていくのか、その基準を設けたいということでした。その中で『従業員の皆さまに喜んでもらう。地域の皆さまに応援してもらえる。そんな価値を持った野球部になろう』という思いが大前提になりました」(眞鍋監督)。
長野も「監督がどんな野球をしたいのかを細かく伝えてもらい、その野球を実現するために選手たちで考えながらチームで戦ってきました」と振り返る。
5月初旬のJABAベーブルース杯で優勝するなど、徐々にチーム力を上げて結果がついてくると、東海地区二次予選は第3代表で勝ち上がった。都市対抗への出場権を獲得する立役者となったのはエースの井村勇介(至学館大)だ。3試合に先発し3勝を挙げ、眞鍋監督も「調子が悪いときでもきちんと試合をつくってくれる。普段から実戦を想定して練習している投手の鑑です」と信頼を置く。また、主将の長野に対しても「より多くの打席に立ってもらいたいので一番打者に起用しています。チャンスメークはもちろん、下位打線がつくった好機で1本打って得点も取ってくれる選手です」と高く評価している。

4戦24得点と打線が機能した二次予選では、主将・長野と一、二番コンビを組む中川拓紀[写真]が打率4割超を記録
Honda鈴鹿[3年ぶり27回目] ■二次予選の結果 熊本は打力に自信アリ なるか決勝の“Honda対決”
2年ぶり18回目の出場となるHonda熊本。九州地区二次予選は初戦を落としたが、第2代表決定トーナメントは5日連続の5連戦という厳しい日程の中、5連勝を飾り代表の座をつかみ取った。渡辺正健監督(明大)は「昨年は予選で敗退してしまいましたが、全国での常勝チームを作っていくために『その敗れた経験を生かして、いかに強くなっていくのか』。そして、『敗者になっても勝ち上がること』をテーマにしていたので、初戦を落としたあとに5連勝できたことは大きな財産になっています」と振り返る。主将の竹葉章人(立大)は「先制されたあと、追い越し、追いつかれる展開でしたが、ワンチャンスをモノにして勝つことができました」と延長10回タイブレークの末に6対4で粘り勝ちした、JR九州との第2代表決定トーナメント2回戦をカギになった試合に挙げる。
予選を突破する最大の要因となったのはHonda熊本の代名詞ともいえるウエート・トレーニング。その中で大きな成長を遂げたのが2年目の寺澤神(筑波大)だ。渡辺監督は「投手陣の層の薄さが課題だったのですが、トレーニングの成果で球威が上がって頭角を現してきました」と話すように、3試合で先発のマウンドを任されて2勝。また、打率.409、3本塁打の稲垣翔太(明豊高)、代表決定戦で2本塁打を放った
山本卓弥(亜大)、3割超の打率に加え9四球のリードオフマン・中島準矢(筑波大)、不動の四番・
古寺宏輝(関東学院大)といった経験豊富な中堅、ベテランも機能し、強力打線は健在だった。

第92回大会で久慈賞に輝いた片山雄貴は今なお中心的存在。自慢の打線と投手陣がかみ合えば悲願の初優勝が見えてくる
Honda熊本[2年ぶり18回目] ■二次予選の結果 3チームの採用担当として、選手のリクルーティングを行っているのが岡野勝俊氏(青学大)だ。岡野氏は16年12月からの3シーズンはHondaの監督を務め、昨年まではHonda鈴鹿でヘッドコーチ。そして、今年1月から現職に就いている。「関東地区を中心に全国を飛び回っています。今は選手がチームを選べる時代で、プロにこだわりを持っているケースも多いので、どのようにアプローチしていけばいいのかを考えながら業務に励んでいます」。
リストアップする選手は1000名に及ぶというが、3チームすべてを受け持っているため「情報を集めるうえで、効率は良いと思います」とメリットを感じている。また、それぞれのチームカラーを意識。「Hondaなら体が大きくてしっかりとバットが振れる選手。Honda鈴鹿なら予選が行われる岡崎レッドダイヤモンドスタジアムが広いので、足が速くて守備が上手い選手。Honda熊本はウエート・トレーニングをかなりやるので、その練習に付いていける選手を選んでいます」。時には、3チームの間で移籍する選手もいる。「片山雄貴(駒大)はHonda鈴鹿でプレーしたあと、当時の甲元訓監督(法大)の『環境を変えれば、伸びる』という声に押されて、Honda熊本へ移り、その3年後にはチームの柱となる投手になりました。選手が納得したうえでの話になりますが、そういった提案もしています」。
来季からは岡野氏が採用に関わった選手もグラウンドに立つことになるが「来年以降も3チームがそろって都市対抗の本大会に出場できるように尽力したいです」と抱負を語っている。
都市対抗の目標について「Hondaのシンボルチームとして期待を感じています。2年分の思いを持って、我々らしく大胆にチャレンジしてハツラツとしたプレーを見せたい。最後は“Honda対決”で日本一を決められれば」と話すHondaの多幡監督。Honda鈴鹿の眞鍋監督は「三重県のトップチームとしての誇りを持ち、地元の子どもたちがあこがれる存在になれるように使命を感じながら戦っていきたい。東海の代表として、そして、Hondaの一員としてトップを狙っていきます」と語る。そして、Honda熊本の渡辺監督は「地元の大津町は義理と人情、夢とロマンの町だと思っているので全国にアピールできるように頑張ります。3チームとも直接対決をしたいと思っているはずなので切磋琢磨して勝ち上がっていきたい」と活躍を誓った。
勝ち上がればHondaとHonda熊本が準決勝、その勝者がHonda鈴鹿と決勝で激突することになる。“Honda対決”を実現させ、東京ドームの観客席をHonda一色に染め上げることを、3チームの誰もが目指す。

黒獅子旗を目指す戦いが始まる。地元の声援も背に一戦必勝で臨む[左からHonda熊本・渡辺監督、Honda・多幡監督、Honda鈴鹿・眞鍋監督]