社会人野球のメインイベントである都市対抗野球大会。今年は例年の7月末開催ではなく、夏の甲子園大会閉幕後の8月末から行われた。トーナメントの一発勝負で磨かれた選手には、ここ一番の集中力がある。NPBスカウトも勝負勘を視察済だ。 取材・文=佐々木亨 写真=BBM 
竹丸和幸[鷺宮製作所]
鷺宮製作所・竹丸が上位候補
9月8日に閉幕した第96回都市対抗野球大会。開幕前から多くの注目を集めたのが鷺宮製作所の2年目・竹丸和幸(城西大)で、全体を通して最も評価を上げた。セ・リーグの某球団スカウトの一人は言う。
「城西大時代は体の線の細さが目立った左腕でしたが、社会人になってグッと伸びた投手。真っすぐの伸びと制球力がいい。しっかりとストライクを取れる変化球を持っているのは強みです」
TDKとの1回戦では、6回を投げて8奪三振、1失点。「ストレートがいい感触だった」と、竹丸本人が振り返ったように、ベース板でひと伸びするような真っすぐを効果的に使ったピッチングは、大舞台での強さも証明するものだった。「上位候補」とは前出のスカウトの評価である。
日本生命の2年目右腕である
谷脇弘起(立命大)も、「真っすぐが強くて、出力が上がった印象」とスカウトの評価を上げた。185cmの高身長から投げ下ろすストレートは150キロ前後。カーブ、スライダーで打者の打ち気を逸らす投球術も持ち合わせる。西濃運輸との1回戦では7回途中無失点の好投を見せた。昨年の侍ジャパンU-23代表に選ばれ、W杯にも出場した谷脇は今夏の東京ドームでも確かな成長を見せた。
21年ぶり2度目の優勝で、最優秀選手賞にあたる橋戸賞を手にしたのは王子・九谷瑠(大阪大谷大)だった。三菱自動車岡崎との決勝のマウンドで、最後の打者を151キロの真っすぐで見逃し三振に仕留めたピッチングを含め、大会を通して抜群のポテンシャルを見せた九谷は社会人4年目の右腕だ。昨年までクラブチームの矢場とんブースターズでプレーして、今季から王子に加入した九谷が見せた今夏の輝きは、まさにサクセスストーリー。一躍、今秋のドラフト戦線にも名乗り出たと言える。

谷脇弘起[日本生命、写真左]、九谷瑠[王子]
チームの初戦敗退によって、都市対抗での登板機会はなかったが、日本通運の右腕である
冨士隼斗(平成国際大)も好素材。180cmの身長を生かして、大学時代からフォークボールを武器に三振の山を築いた。2年目の今シーズンは南関東二次予選の第1代表決定戦で先発マウンドを担い「威力がある」と評判の150キロ超のストレート、2種類のスライダーを駆使して1安打完封の好投。そのピッチングからも、チームの信頼度の高さがうかがえた。「素材はいい。社会人に入ってからピッチングの安定感が増して順調に成長している」というスカウトの声も多い。
大卒3年目左腕も安定感
ドラフト解禁年での指名はなかったが、プロから熱い視線を注がれているのが、トヨタ自動車の左腕・
増居翔太(慶大)だ。3年目の今シーズンもチームの柱を担い、今夏の東京ドームでもJR東日本東北との1回戦で先発。チームは敗れたが、8回途中まで2失点に抑える圧倒的な安定感は光った。「球速が上がり、何よりコントロールがいい。ゲームをつくれる投手」と高い評価をするプロの声もある。また、今大会の信越クラブとの1回戦で1失点完投した大阪ガス・大宮隆寛(東洋大)も今年で26歳を迎えた4年目だが、その安定ぶりは、社会人を代表する右腕と言えるだろう。

増居翔太[トヨタ自動車、写真左]、大宮隆寛[大阪ガス]
都市対抗出場チームの中では、ホンダ鈴鹿の
田中大聖(太成学院大)も注目株。2年目右腕は「馬力があってプロでもショートイニングを投げられる可能性はある」と語るスカウトも。NTT西日本の補強選手だった日本新薬の2年目右腕である遠藤慎也(亜大)は、「ボールが強い。ブルペンを見ていたら『打たれない』と思うストレートは、やはり魅力的」(前出のスカウト)。カーブ、スライダー、ツーシーム、カットボールと満遍なく変化球を投げ分けるピッチングも強みだ。

田中大聖[ホンダ鈴鹿、写真左]、遠藤慎也[日本新薬]※NTT西日本の補強
JFE西日本の2年目である岩本龍之介(亜大)は「スライダーとチェンジアップで空振りが取れる」左腕だ。140キロ台のキレのあるストレートもあり、クローザーの資質も兼ね備える。さらに、JR西日本の2年目・中岡大河(富士大)を推す声もあり、複数球団が追いかける右腕は「変化球が多彩」と高評価を得る。

岩本龍之介[JFE西日本、写真左]、中岡大河[JR西日本]
経験豊富な司令塔
野手では、スカウト陣の「捕手の需要がありそう」という声が聞こえる中で、3選手が注目されている。まずは、ENEOSの2年目である
有馬諒(関大)だ。今夏の東京ドームでは2試合で先発マスク。JR西日本との1回戦では、3回表に勝ち越し打を放つなど、勝負強い打撃も見せた強肩強打の捕手。準々決勝でサヨナラ2ランスクイズによって金足農高(秋田)に屈するのだが、その2年夏の甲子園も印象深い近江高時代は、のちに西濃運輸を経てプロへ進んだ
林優樹(
楽天)とバッテリーを組んだ。日米大学選手権で侍ジャパン大学日本代表を経験した関大時代は、1学年下で昨年のドラフト1位である金丸夢斗(
中日)とコンビを組んだ。「そういう投手たちのボールを受けてきたからこそ、今の自分があると思う」と話す有馬は、大舞台での豊富な経験値もまた大きなアドバンテージと言える。

有馬諒[ENEOS]
日本通運の3年目・山本空(城西大)は、「高いレベルで安定したプレーができる。打力も悪くない」と言うスカウトがいるほどに、攻守走で輝きを放つ身長164cmの捕手だ。特に捕手とは思えぬ脚力は大きな武器で「走れる捕手」のドラフト指名はあるだろうか。東芝の2年目・
萩原義輝(流通経大)は180cmの大型捕手。今夏の都市対抗では、28歳のベテラン捕手の主将・中村浩人(法大)にスタメンの座を奪われる形となったが、将来性は十分だ。
右の大砲2人に注目
打撃で注目されるのは、長距離砲のJR東日本の2年目・高橋隆慶(中大)。186cmの恵まれた体躯を最大限に生かして、右打席からの豪快なスイングは威力十分。「アベレージがもっと上がれば、さらに楽しみ」(前出のスカウト)。確実性を高めれば、評価は一気に上昇しそうだ。

高橋隆慶[JR東日本]
同じく長打に魅力を感じるのが、ENEOSの2年目である村上裕一郎(九州共立大)。JR西日本との1回戦の8回表には、無死一、二塁から右中間へ2点適時二塁打を放つなど「強く振れるバッター」を証明。「粗削りだが、伸びしろがある」。右の大砲も、やはり指名候補の一人と言える。

村上裕一郎[ENEOS]
ほかには、打撃向上が目覚ましいトヨタ自動車の2年目・
熊田任洋(早大)。183cmの左の強打者であるJFE東日本の2年目・
大森廉也(駒大)は「打撃が今年に入ってさらによくなった。パワーがついて打球の質が変わった」と、スカウト陣も目を光らせる。NTT西日本・
成瀬脩人(東海大)は、広角に打ち分ける打撃技術に定評があるポテンシャルの高い遊撃手。

左から熊田任洋[トヨタ自動車]、大森廉也[JFE東日本]、成瀬脩人[NTT西日本]
高卒3年目でドラフト解禁年を迎えたJFE西日本の
田中多聞(呉港高)は、「脚力があってスケール感がある外野手。高校時代から順調に成長している」(前出のスカウト)。ENEOSの2年目・
松浦佑星(日体大)は、50メートル走6秒切りのスピードスター。「ポテンシャルが高く、走力と守備力は目を引く」とスカウト陣をうならせる。

田中多聞[JFE西日本、写真左]、松浦佑星[ENEOS]
今夏の都市対抗でも、磨けば大きな光を放つ、確かな原石たちがいた。社会人はあくまでも「即戦力」。10月23日、その最終ジャッジが注目されるところだ。