
全国各地の試合会場ではNPBスカウトが視察。「これぞ!」と惚れ込んだ選手を追いかけるのが、この仕事の醍醐味だという[写真=BBM]
ドラフトとは、人との縁である。会議当日にならなければ、何が起きるか分からない。12球団同時入札である1位については、水面下で球団間の駆け引きがある。2位はウエーバー順、3位は逆ウエーバー順で、以下繰り返しとなるが、思い描いたとおりの指名ができるのは稀である。
想定外が常。各球団はさまざまなパターンを予想して、どんな展開になっても対応できるようにシミュレーションして、当日を迎える。その場で考える時間は、限られているからだ。テーブルに着席するのは球団幹部と編成、スカウト部門の管理職。担当スカウトは控え室で待機して、1年間の総決算の場をじっとモニターで見守る。担当の選手の交渉権が確定すると、まるでわが子が誕生したかのような感情が湧き出てくるという。
NPBスカウトとは、アマチュア球界の「現場窓口」である。ドラフト後は指名あいさつ、入団交渉、メディカルチェック、施設見学、入団会見、入寮、新人合同自主トレ、春季キャンプインまで、身の回りの世話をする、親代わりと言っていい存在だ。そんな熱い思いを持って休みなく、全国津々浦々に足を運んでいる。
球団カラーが出る4位以下
さて、上位指名とは、一般的に「3位以内」と言われる。その年のドラフト対象選手の「上位36人」となるわけだが、プロが見る「評価」であり、どの球団も大きくは変わらない。つまり、球団カラーが色濃く出るのは、4位以下。下位指名、育成ドラフトこそが、ドラフトの醍醐味である。
過去をさかのぼっても、例を挙げれば
広島・
前田智徳、広島・
金本知憲、
オリックス・
イチロー、
ヤクルト・
青木宣親、
西武・
和田一浩、現役選手でもオリックス・
山本由伸、広島・
坂倉将吾、西武・
平良海馬、
日本ハム・
万波中正ら、ドラフト4位は「出世順位」と言われている。担当スカウトの眼力はもちろんのことだが、上司、担当外のスカウトが視察するクロスチェックを経て、最終的にはスカウト会議で、球団上層部を納得させるだけのプレゼン能力があって「縁」が生まれるのである。
上位指名、下位指名では、その序列により契約金、年俸など金額的な差が生じる。1位選手は入団会見等の各球団行事、メディア露出においても華々しいのが現実。グラウンドにおけるさまざまなチャンスにおいても、1位選手がやや優遇されることはあっても「入ってしまえば、横一線」は間違いない。結果を残した者が生き残る、弱肉強食の世界である。
昨今は有力高校生が高卒でのプロ志望を回避し、4年後、もしくは3年後の即戦力を目指して大学進学、社会人野球へ進む傾向が見られる。一方で、育成ドラフトの評価であっても、とにかく夢を追う学生もいる。現実的に育成からの支配下登録は狭き門であり、活躍する成功例は極めて限定的。ただ、チャンスを生かすも、殺すも努力次第。プロ入り後の出会い、例えば、担当コーチとの関係性で新たな世界が広がる可能性もある。「運も実力のうち」なのだ。
選手に惚れ込むこと
選手とプロ野球をつなぐ、その「橋渡し」となるのが、担当スカウトである。春、夏の甲子園は指定席となり、その苦労はなくなったが、各地方大会は、朝早くからスカウトは試合会場に足を運び、チケット購入のために並ぶ。ネット裏のベストポジションから対象選手を視察するためだ。どこで縁が生まれるか分からない。いつ上司から聞かれてもいいように、スカウトは常に担当地区の最新情報を持っていなければならない。
広島一筋で48年、スカウトを務めた
苑田聡彦さんは、かつてスカウティングの流儀を、こう語っていた。
「この仕事の極意は、これぞ! と思った選手に惚れ込むことです。本気で惚れ込まなければ、スカウト会議でオーナーに推薦はできません」
スカウトの情熱は、選手に届く。そこで、人と人との強い結びつきが芽生える。ドラフト当日、指名順位に差は出るが、スカウトの熱量は、どの順位でも変わらない。球団は戦力として、期待を込めて獲得。選手の気持ち次第で、人生は変わるのだ。(文=岡本朋祐)