ヤンキースの田中将大が、4月4日(日本時間5日)に行われたブルージェイズ戦でメジャー・デビューを果たした。7回を97球、6安打、1本塁打、3失点でメジャー初勝利。日本人投手史上、初登板初勝利は伊良部秀輝、吉井理人、石井一久、松坂大輔、黒田博樹、上原浩治、川上憲伸、ダルビッシュ有に続き9人目。また、日米通算100勝目もマークし、登板176試合目での達成は、65年に始まったドラフト制度以降では、ダルビッシュ有(レンジャーズ)の177試合を抜いて最速というダブル快挙を成し遂げた。 文=笹田幸嗣 写真=AP 間違いなく本物 
▲先頭打者ホームランを打たれ、味方のエラーで一時逆転を許した田中だったが、即座に修正。メジャー・デビューを勝利で飾った
ルーキーでありながら、メジャーの先発投手史上5番目の高額契約(7年総額1億5500万㌦(約160億円)を結んだ田中将大のデビューは、当然のように喧騒の渦に包まれた。
ブルージェイズのジェイ・ステンハウス広報部長は「われわれは2003年の
松井秀喜のヤンキース・デビュー、10年の
イチローの10年連続200安打をこの球場で経験しているが、今回のメディアの数はそれに匹敵するね」と説明。多くのメディアとファンが田中の投球に注視。メジャー・リーグ関係者の視線のすべてが、田中に注がれたと言っても過言ではなかった。
メジャー初登板の田中に掛けられた重圧。そのプレッシャーは計り知れない。高校時代から幾多のプレッシャーと向き合い、「大きな注目をされるといことはプロとしてありがたいこと」と語ってきた田中だが、この日ばかりは、「マウンドに上がる前までは緊張感というのがあって、マウンドに上がってからはゲームに入り切れない感じがあった」と、平常心を保てずに苦しんだ。
その結果が2回までに38球を要し、4安打、1本塁打、3失点。四球こそ与えなかったが、得意のスライダー、スプリットとともに切れ味鋭い変化は影を潜め、痛打された。
だが、結果的に序盤に苦しんだ投球から、回を追うごとに立ち直っていった姿が田中の評価を大きく上げることになった。
ヤンキースのジョー・ジラルディ監督は「いい仕事をしてくれた。よく落ち着いてくれた。最初の数イニングは荒れていたがよく自分を取り戻した。感情面をうまくコントロールし、成熟した投手だと感じた」と褒めれば、ブルージェイズのジョー・ギボンズ監督は「序盤にはいくつかのミスもあり、われわれはそれをとらえることができたが、田中はその状況を自ら立て直した。間違いなく本物だと思う」と、最大限の賛辞を送った。
イチロー、黒田も敬意を表す また、現地メディアもこぞって、初登板で見せた田中の修正能力の高さに舌を巻いた。
ニューヨーク・タイムズ紙は、1回に先頭打者本塁打を許した後にパニックにならずに
バティスタ、エンカーナシオンを落ち着いて三振に仕留め、2回も味方の失策があり2失点を喫したあとに連続三振を奪った点に注目。「平常心を保ち、困難を克服していった」と評価。ニューズデー紙は「完璧とまではいかなかったが、大きな注目を集める状況を苦にせず、高い修正能力を発揮した」と誉め称えた。
田中の修正能力を評価したのは選手たちも同様だった。同僚の黒田博樹は「前半は少しバタバタしたが、途中からすごく落ち着いていた。四球もなく低めに集まっていて、すごく安心して見ていられた。自分の中で修正して切り替えていくことは、この世界で生きていく上で一番大切」と、最高の賛辞を送れば、数々の偉業を成し遂げ、常に周囲の期待に応えてきたイチローは、「日本で成績を残した人ほど、最初は(周囲が)異常な状態になる。それが(本人の)通常な精神状態を邪魔することが一番多いと思います。それでも、7回を100球以内で終わらせるのはすごいと思いますよ」と、田中の能力の高さに敬意を表した。
田中も自身のパフォーマンスについて、「今までの野球人生で積み重ねてきた経験があったから、持ちこたえられた」と、日本で培ってきた技術と経験に胸を張り、一大喧騒の中、見事に結果を導き出したことには、「悪い中でも粘ってゲームをつくって、チームの勝利に貢献できたのがすごくうれしい」と、素直に喜んだ。
今後も当面は、投げるたびに新しい環境下での適応が求められることになる。だが、田中は言った。「そういうところも楽しんで、どうやって適応、対応しようというのを楽しみながら投げればいい」
頼もしい限りの25歳。彼の投球をこれからも楽しみにしたい。

▲メジャー初勝利でカメラに向かいニコリ。尋常ではないプレッシャーの中で自らの仕事をやり切った充実感が漂う