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Photos by Takashi Takashio

No-Hitter

ただ勝ちたい。勝つために抑えたい。

5月2日、西武の岸孝之がプロ野球史上78人目、89度目のノーヒットノーランを達成。
許した走者は四球での1人という“準完全試合”。
独特の浜風が投手を苦しめるQVCマリンで、その風さえも味方にして27のアウトを重ねた。
最下位に低迷するチームに、とびきりの笑顔を運んだ一戦をあらためて振り返ってもらった。

▲最後の打者をファウルフライに打ち取ると、真っ先に捕手の炭谷がマウンドへ駆け寄った。試合後、岸は「銀仁�討�良いところを引き出してくれた」と感謝


取材・構成=田辺由紀子 写真=高塩 隆、大泉謙也(インタビュー)

とにかく先頭打者を出さないように

──5月2日のノーヒットノーラン、おめでとうございます。試合直後も「まさか、まさか」とおっしゃっていましたが、数日経って、今はどう感じますか。

岸 やっぱり、まさかです。あんなに、うまくいくことって稀ですからね。この世界で1勝するのも難しいのに、そんな記録を達成できるとは思わなかったです。今もふと考えると、そういえば、そんなすごいことをしたんだなって感じです。

──当日はブルペンでも調子がいいという感覚はあったんですか。

岸 いや、それはないですね。正直、その前の週の疲れが完全には抜け切れていなくて。体が重い感じがあったので、どうだろうなっていう……。毎週そうなんですけど、「今日はどうだろうな」っていう感じで試合には入りましたね。

──調子がいいなというのは、どの段階で感じましたか。

岸 プレーボールがかかって、すぐ……かな。そういうのって、試合になると、またやっぱり違うので。初回から真っすぐはいいなとは思っていて。

──その初回、二死から井口資仁選手にフォアボール。変化球でした。あとから振り返ってみると、ちょっともったいなかったなという思いはありますか。

岸 いやぁ、でも、初回のあの変化球の感じだったら……。2アウトからだったんで、もったいないといえば、もったいなかったですけど。でも、あれで点が入らなくて良かったなって思いますよね。やっぱり2アウトからフォアボールで走者を出してしまうと、イライラしますからね、自分の中で。

──では、そのときもイラッと?

岸 うん、何やってんだろうなって。

──変化球はそんなに良くなかった。

岸 やっぱり屋内のブルペンから風のあるマウンドに行ったので。そのへんで微調整というか、そういうのは、QVCマリンはいつも難しいですね。

──成瀬善久投手も試合後「風を意識し過ぎた」というコメントをされていました。

岸 変化球に関しては、僕もそうだったと思います。ただ、真っすぐに関しては苦にならなかったですね。若干、体がヨロっとすることはありましたけど。

──そんなに?

岸 意外と風を感じます。立ったときに、風で体がよろける感じはありましたね。

──QVCマリンでの岸投手の成績は、10試合の登板で、これで8勝1敗。相性の良さを感じますが。

岸 ここ近年じゃないですか。札幌ドームもそうなんですけど、ファウルゾーンが広いんで、他の球場に比べてファウルフライが多いし、そういうので助かるなというのはありますね。ファウルゾーンが広いと、球場が広く見えて、気持ちがちょっと楽になる。

▲ファウルゾーンが広く、「気が楽に投げられる」と言うQVCマリン。風の影響で変化球の制球には苦しんだが、武器の直球はより生きた



──そういえば、先日の試合もファウルフライが多かった。ファーストの(森本)稀哲さんがファウルフライを捕って、うれしそうだったのが印象的でした。

岸 若干、危なっかしい感じで(笑)。

──岸さんのフィールディングも良かったですね。

岸 いや、本当に体は若干重い感じだったんですよ。でも、やっぱりそういう感じがあっても、試合になったらまた違うんですよね。

──直球が良かったというところでは、今季4戦目の4月18日のオリックス戦(西武ドーム)でも「ここ数年でいちばん良かった」というコメントをされていましたが。

岸 でも、そのときは序盤まででしたね。だんだん疲れてきて、いつもどおりみたいになったんですけど、この間はもう全然行けました。

──そういうことって、過去には?

岸 うーん、1年に一度あるかないか。それくらいです。

──7回くらいからノーヒットノーランを意識し始めたと試合後に話していました。普通だとだいたいそのくらいに球威が落ちてくるころだと思うんですが。

岸 そこを全力で投げようと思いましたね。いつだったか、何年か前も千葉であったと思うんですよ(※2011年9月25日、5回までパーフェクトピッチング)。そのとき6回にヒットを打たれて……っていうのを思い出したので、とりあえず思い切り投げようと思いましたね。

──7回の味方の攻撃で満塁から得点が入りませんでした。こういうときの後というのは往々にして逆にピンチを迎えることも多いですよね。

岸 そこはすごく気を使ったところです。それこそ、本当に先頭バッターを出さないように。

──2点差という緊張感もありましたか。

岸 たぶん、それはあったと思います。2点差って、本当にどうなるか分からない。足の速い、いいバッターが多いので、先頭で出すと、走られたりもする。そうなると自分の記録どうこうじゃなくて、チームの勝敗に関わってくる。相手投手も成瀬だったので、そんなに点は取れないだろうなというのもありましたし。とにかく絶対、先頭を出さないように、それはいちばん気をつけていましたね。

──特に、その中で出したくないなと意識したバッターはいましたか。

岸 やっぱり足の速い選手。いま、ずっと連勝してきて調子のいいチームでもあったので、全体的に注意を払って投げてはいましたけど、特に足の速い選手は出したくないなと思っていました。あと、先頭打者を出したくないと思っていたという意味では、8回、角中(勝也)のキャッチャーフライは助かった。2ボールからで、その打った球もボールだったんですよ。まあ、どこも気をつけて投げていましたけどね(笑)。

──9回のマウンドに上がるときの心境はどうでしたか。

岸 うーん……最後だなと。ただ、2点差は本当にどうなるか分からないので、1人でも出すとまたクリーンアップに回ってしまう。だから、試合のことを考えてクリーンアップに回したくないと。試合のことを考えても、3人で終わらせたいなとは思っていました。

──最後はけっこう粘られましたが。

岸 はい。でも、そのときは全然行けましたね。とりあえず、もう思い切り投げようと。
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