ソフトバンクのエンジンがついに火を噴いた。オールスター明けの17試合で14勝3敗でオリックスを逆転し、首位の座を安泰のものにしつつある。主力にケガが続出するアクシデントもものともせず、強い。シーズン前、圧倒的優勝候補に推されたチームの今をリポートする。 写真=BBM 
▲約束した日本一へ、勢いを加速させたソフトバンクの秋山監督
天敵打ちで反攻へ勢い
2011年以来遠ざかる覇権奪回へ向け、秋山ホークスは後半戦再開と同時に地力の差を見せ始めた。球宴明け最初の対戦となった
ロッテ3連戦(ヤフオクドーム、北九州)に2勝1敗と勝ち越すと、8月8日からの
日本ハム戦(ヤフオクドーム)まで6カード連続勝ち越し。6連勝以上を2度も記録するなど着実に貯金の数を伸ばし、オリックスと入れ替わって首位の座に就いた。
浮上の「核」となったのが打線のつながり。きっかけは天敵退治だった。7月21日、後半戦初戦の相手となったロッテの先発は新人・石川。3度の対戦で0勝2敗。20回2/3で自責0と完全にカモにされていた右腕を、それまで通算32打数4安打と苦にしてきた左打者が徹底的に攻略した。
6回、同点の場面で決勝打を放ったのは、一番に定着して2年連続打率3割を狙う
中村晃。首脳陣から出されていた「直球狙い」の指示を忠実に守り、内角高めにきた140キロの直球を右翼線へ打ち砕いた。
その前段。同点に追い付き、勝ち越しのチャンスを演出したのも左打者の面々だった。この回先頭の
柳田悠岐が右前打で出塁すると、続く
本多雄一がセーフティーバントで好機を拡大。代打・
松中信彦が同点犠飛を放つなど一丸となった攻撃で、ロッテのルーキー右腕にホークス戦初黒星をつけた。同時に球宴明け初戦の白星は、日本一まで上り詰めた11年以来、3年ぶりの“吉兆星”。0.5ゲーム差につけていた首位・オリックス逆転へ、最高のスタートを切った。
この3連戦。チームは本塁打を放つことなく、3試合連続2ケタ安打を記録した。2戦目は中継ぎ陣が踏ん張り切れずに逆転負けを喫したが、3戦目は5、6回に5長短打を集めるつなぎの野球で今季チーム最大となる4点差を跳ね返しての逆転勝ち。3試合連続2ケタ安打は最終戦まで優勝を争った交流戦以来と、状態が上向きであることを予感させた。
また、3戦目に決勝打を放ったのは途中出場の
明石健志。
秋山幸二監督は「自分のポジションは自分で奪わないと。そういうもの(気迫)が明石には出ていた」と精神面の強さを称賛した。これこそが、今季のホークスの“強さ”なのかもしれない。

▲内野陣に故障者が相次いだが、明石ら代役が力を発揮し、補って余りある貢献をしている
全員戦力の意識付け
選手会長の
松田宣浩が7月2日の試合前練習中に右手人さし指を骨折し、3日、戦列を離れた。それまで13本塁打、46打点は堂々のチーム2冠。打線の核としてだけではなく、リーグ屈指ともされる三塁の守備力に加え、ムードメーカーとしてもチームをけん引してきた。まさになくてはならない男の離脱。秋山監督にとっては想定外のアクシデントだった。が、代役の
吉村裕基が存在を示した。
今季は一軍昇格した交流戦から主に代打が役目。先発出場しても3試合連続安打、3試合連続打点を記録するなど勝負強さを発揮してきた。その働きが評価され、松田の離脱後は三塁を任された。首脳陣の期待に応えるように、7月5日の
楽天戦(ヤフオクドーム)では自身4度目の1試合4安打を記録。その後も安打を重ね、打率を.415まで引き上げる活躍を見せた。同10日に右ふくらはぎの肉離れで戦線離脱となったが、首脳陣に焦りはなかった。
球宴休み明けの全体練習。秋山監督は優勝争いが本格化する後半戦に向けて意気込みを示していた。
「最後にトップでゴールを切れるように。オリックスがどうこうではなく、各球団との戦いという考えでいかないといけない。そのために、夏場に向けて戦力をつけること。二軍も含めたチーム力をつけることがカギになる」
松田、吉村が相次いで負傷離脱したように、一寸先は闇状態。そんな不測の事態にも、12球団一とされる選手層の厚さでカバーした。
8月2日の日本ハム戦(札幌ドーム)では本多が左手薬指に死球を受け、亀裂骨折で戦線離脱した。だが、代わって二塁で先発出場した
金子圭輔が翌3日の試合で活躍。最速162キロを誇る日本ハム先発・大谷から先制決勝打を含むマルチ安打の活躍を見せ、難攻不落の男に98日ぶりの黒星を付けた。「いつでも一軍で行けるよう、体力も技術も気持ちも高めてきた」。前半戦は若手に交じり、雁の巣球場で汗を流し続けたプロ11年生は、プライドをのぞかせた。
そろってきた先発投手のコマ

▲先発投手陣は後半戦に入って大隣、武田[写真]、飯田が初勝利を挙げるなど、コマがそろってきた
層の厚さでいえば、投手陣も負けていない。むしろ、投手陣の方が激しいチーム内競争を強いられている。特に後半戦、先発陣は
攝津正、
スタンリッジ、
中田賢一の“3本柱”を軸とし、そのほかの先発ローテーションを、そのときの状態と照らし合わせながら試合に組み込む方策で、各自に競争意識を植え付けることに成功した。
プロ通算89勝の
帆足和幸を筆頭に、黄色じん帯骨化症の難病から復活した
大隣憲司、育成枠から今年5月に支配下登録されたばかりの
飯田優也、開幕時は先発ローテ入りしていた
東浜巨、一皮むけようと必死の
岩嵜翔、右肩の故障から復活した
武田翔太と平等にチャンスが与えられ、それぞれが首脳陣を納得させる結果を出した。
昨季、秋山ホークスはリーグ最多の18人を先発起用。これは攝津以外に固定できる先発投手がいなかったことを意味しており、結果的に秋山政権では初のBクラスとなる4位でシーズンを終える屈辱につながった。一方、今季も先発起用人数は14人(8月9日時点)とリーグ最多だが、球宴明けは飯田がプロ初勝利、大隣、武田がそろって今季初勝利を挙げるなど、昨季とは層の厚さが違うことを結果で示している。
中継ぎ陣も同様に、激しい競争を勝ち抜いた男たちが各持ち場で役割を果たしている。後半戦再開直後、主に勝ち試合の7回を任されてきた
岡島秀樹が左ふくらはぎの肉離れで戦列を離れたが、代役に指名された
森福允彦、
柳瀬明宏、
森唯斗の3人が競い合うようにチームの勝利に貢献する。
かつて“勝利の方程式”の一員を担っていた森福は、8月3日の日本ハム戦(札幌ドーム)で4年連続40試合以上登板をクリア。防御率も1点台を維持し続ける安定感に「まだまだ通過点。個人的には50試合を一つの目標に置いてますから」と柳瀬とともに、経験豊富な投球でブルペンを支える。森も新人ながら30試合以上に登板。1点台の防御率でほかの先輩投手に刺激を与えつつ、8回の
五十嵐亮太、9回の
サファテにバトンをつないでいる。
シーズン開幕直前の3月。都内・本社で行われた激励会では、孫正義オーナーが監督、コーチ、選手を前に日本一奪回を厳命した。
「昨年の鬱憤を何としてもスカッと晴らしてもらいたい。それはファンも同じだと思う。何としても日本一を取ってほしい」
これに対し、秋山監督も「日本一という形で恩返ししたい」と珍しく、並々ならぬ決意を見せていた。
背景には昨オフ、総額約30億円の超大型補強に動いてもらった“恩義”がある。特に2年総額9億円プラス出来高の超大型契約で獲得してもらった
李大浩はどんな不調に陥っても「四番」から外すことなく起用し続け、打線の「核」としての働きを求め続けた。
小久保裕紀(現侍ジャパン監督)が引退した12年以降、四番を固定できなかったことが2年連続V逸の要因であったことを指揮官自ら反省していた。巨額を投じた戦力補強に「やり過ぎ」との“雑音”が聞こえることもあったが、だからといって結果に反映されるほど甘い世界ではない。3年ぶりの覇権奪回へ、秋山ホークスがチーム一丸となって突き進む。