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2014ペナントレースエクスプレス

64年ぶりに記録を塗り替えた山田哲人の素顔

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▲6回に右打者のシーズン最多安打記録を更新し花束を受け取った山田。この日今季20度目の猛打賞でチームを勝利に導いた



人なつっこい努力家


 10月6日、22歳にしてその名を球史に刻むと、お立ち台ではいつになく興奮した声でこたえた。

「ホントにもう信じられないですね。うれしいです」

 ヤクルト山田哲人はこの日、日本人の右打者シーズン最多安打記録をド派手に更新してみせた。チームの143試合目となったDeNA戦(神宮)の6回、山口俊のスライダーをバットを折りながらレフト前へ運ぶと、今季191安打目とし1950年の藤村富美男(元阪神)の記録に並んだ。さらに2点を追う8回、一死満塁の好機に打順は回ってきた。新記録更新へ期待がかかるその打席は今日一番、いや、今季一番の歓声だったかもしれない。

 山口の直球は3球連続でストライクゾーンを外れ、直後の4球目、真ん中内寄りの直球をフルスイング。「ノースリーだったので、もう思い切って、空振りでもいいから自分のスイングをしようと思っていきました」というその打球は、きれいな放物線を描きレフトスタンドへと消えた。史上最多となる192安打目は逆転のグランドスラム弾。まるで漫画の世界のような展開に、ヤクルトファンにとどまらず、野球ファンを興奮の渦に巻き込んだ。

 その歓声は確かに山田の耳にも届いていた。「やばいね。大歓声でした」と満面の笑み。「打った瞬間行ったなって思いました」とドヤ顔を見せるも「まあ、めっちゃギリギリでしたけどね(笑)」といたずらっぽく笑顔で自虐的に振り返るあたりも山田らしい。

▲今季29号となる逆転満塁本塁打で記録を塗り替え、「最高でした」



 64年ぶりに記録を更新したのは、高卒4年目の22歳。一般的には大学4年生の年齢だ。同期の西田明央が「いつも明るくて人なつっこい」と話すとおり、普段はマイペースでチームメートからかわいがられる弟キャラだ。31歳の飯原誉士は「山田は純粋で練習熱心で、本当にかわいい後輩ですよ」と笑顔で語る。

 8月の神宮球場。真夏だというのにほかの選手に比べ、顔だけが白い。聞くと「太陽が出ているところでは常に帽子をかぶっているので」と少し不機嫌そうな顔でこたえた。22歳の青年にとって肌が白いというのはあまりうれしくない言葉だったのかもしれない。だがこれは大事な熱中症対策。夏に弱いと自覚しているからこその行為だった。ヘルメットからのぞく山田の目には、しっかりと試合に出続ける覚悟が表れていた。8月には、月間MVPを獲得。会見では「毎日必死でした。暑さに負けないぞという気持ちでやっていた」と語ったが、苦しい夏を乗り越え、成長した姿がそこにはあった。

新たな1年目


 シーズン中、どんなに安打を量産し、どんなに記者に囲まれても「一日1本を目標に」「一番打者として出塁することだけを考えています」と自分を見失うことなく、チームの勝利のためにバットを振り、見極め、走り続けた。四球数はリーグ4位の74、二塁打は同1位タイの39。この数字が表すのは、決して欲張らず全力でプレーした山田のチームへの貢献度を意味している。

 シーズン中、「来年の方が怖いです。同じような結果が出るかは分からないので」と本音をもらしたことがある。だが、今季開花したその才能にファンの期待は高まる。

 刺激を受けているという西田は言う。

「試合に入るときの集中力がすごい。ああいう場面で打って記録を更新するなんて、“プロ野球選手”だなって思います。子どもがあこがれる選手ですよね」

▲試合前の練習中にリラックスした笑顔を見せる。明るい性格でチームメートも認める努力家だ



 記録達成翌日、試合前の神宮球場で多くのファンが山田を囲んだ。女性ファンが「頑張ってください」と声をかけたかと思うと、男性ファンの集団が「山田哲人おめでとう!」と山田の応援タオルを手に祝福した。小さい子どもが身長180センチの山田の視界に入り込もうと必死に体を伸ばし手を振っている。そんな一人ひとりに照れながら応える山田は「うれしいですよね、やっぱり。こうやって声をかけていただけて」とかみしめるように言った。

 今季は143試合に出場し193安打の打率.324、セ・リーグでは日本人トップの29本塁打の活躍を見せた。それでも「まだ1年目ですから。毎年結果を残すのがプロ野球選手」と繰り返す山田。確かにスタートラインに立ったばかりだ。

 ファンの期待を背負う背番号23は、自らが目指す選手像に向け、努力を惜しまず、さらなる進化を続ける。

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